79話 突然の雨
「やばい、雨降ってきた!」
「カルラくん、こっち!」
ベンチでのんびりお喋りをしていたが、雲行きが怪しくなり始めたと思ったら直ぐに降ってきた。
傘を差して歩く人、急いで屋根のある建物に向かう人。
そんな人々が交差する中、カルラくんの手を引いて屋根のある建物に身を置き、降り続ける雨を見上げる。
「この世界、天気予報とかないからな……」
「よほー……なんですか?」
「ううんなんでもない! 雨とか予想出来たらな〜って思っただけ!」
「確かに、そういうのがあったら天気とか気にせずに下町歩けますもんね?」
この世界、カフェや露店、商店街など、実現しやすいものは大いに揃ってるけど、写真がまだ試作品だったり、伝達手段が手紙だったりと、発展が異様に疎だ。
「カルラくん寒くない?」
「僕は大丈夫ですけど、ヒカリちゃん……っ!?」
「カルラくん?……はっ!」
耳を真っ赤にしてそっぽ向いて一体どうしたかと思ったら、雨に濡れて少し服が透けていた。
ちょっと……だいぶ恥ずかしいなぁこれ!?
「ごめんねヒカリちゃん」
不意にカルラくんは僕を引いて壁側まで誘導する。
そしてーー
「え……へ!?」
僕を壁に押してカルラくんが前に立ち、そのまま身を寄せる。
(いやいや……いやいやいやいや!?)
壁ドンどころじゃない至近距離!
いやね、透けた服を大衆に見られないようにするって配慮なのはわかるよ? とてもありがとう!
でも、ちょっと……うん!?
「ヒカリちゃんの顔が……真っ赤だ」
「うるさいよ?」
レオンごめん、僕婚約者候補なのにこんなことに……。
多くの人が雨宿りで建物に身を寄せ、話し声すら殆ど聞こえない、雨音だけが広間周辺を響かせる。
そんな中でーー
「ママァァ!!」
と、遠くから小さな女の子の声が聞こえだす。
「ママぁぁぁ!」
雨の中でも徐々に大きくなっていく声。確実にこっちに近づいてきてる。
ようやく姿を見せた子はびしゃびしゃになっており「こっちに入っておいで!」と声をかける人に聞く耳持たず、雨の中泣きながら徘徊している。
(どうしよう……)
助けるべきだよね。あんな小さな子供が雨に濡れながら泣いてるんだもん。
でも、ちょっと……。
「ヒカリちゃん?」
カルラくんも迷子の存在には気づいている。でも動けないんだ。
そして雨宿りしている、僕含めて全員、自分可愛さに動けない。
「……情け無い」
何が自分可愛さだよ! 元男子高校生だろ! 僕は十歳じゃない、前世の足し算で二十歳超えてんだ!
(ねぇ前世の僕、平凡って嫌いだったよね? もう前世の僕を言い訳にしないって決めたよね? そんな事しないから、せめて動機の一つくらいにはなってね!)
「……カルラくんごめん」
「ちょっ、ヒカリちゃん!」
僕はカルラくんの身体を避けて雨の中飛び出し、泣き叫ぶ子供に近寄る。
「君、大丈夫?」
「ママどこぉ!!」
雨音よりもずっと大きな声でなく女の子。
多分このままじゃ埒が明かない。
「ねぇ、お母さん探してるの? お名前なんて言うの?」
膝をついて目線を合わせ、濡れる服や髪なんて一切気にせず笑いかける。
「ううぅ! ナナ、ママと逸れちゃった……!」
「ナナちゃんか! 雨が止んだらお母さん探しに行こっか!」
「ヤダァ! 早くママと会いたいよぉぉ!」
名前はわかったけど、不安な気持ちが上回り、居ても立っても居られない。
「……じゃあ、今から一緒に探しにいく? 二人なら直ぐ見つかるかもしれないよ?」
「っ! うん……」
取り敢えず頷いてくれた。
「カルラくんごめん、ちょっとこの子のお母さん探してくるね?」
「ヒカリちゃん! 雨の中だよ!?」
「あはは……」
「…………なら僕もいく!」
「うん、ありがとう」
一応傘を買うお金は持ってるけど、こんなずぶ濡れで店に入るのは迷惑だし、その間にこの子を見失うのは最も最悪。
「カルラくん、お金渡すから、傘買った後来てくれる? 私はこの子が来た方角行ってみるからさ!」
「ヒカリちゃん……!」
「それじゃあ探しに行こっか!」
「うん……!」
カルラくんに濡れたお金を託し、ナナちゃんの手を繋いで遡る。
*
「いないねぇ?」
「ママいない……」
歩き始めて数分。
この子を見かけたら確実に声は上がるだろうし、この子が見落とさないようにゆっくり歩いている。
まぁまだ始めたばかりだし、しょうがない。
(しかし……こんな形でこの服装に感謝するとは……)
初めてミニ丈のスカート履いた時は嫌だったけど、雨に濡れてまとわりつく不快感は、ズボンに比べてかなり少ない。
通るたびに雨宿りしている人から「雨宿りしないと!」というか声が響くが、ナナちゃんが母親探しに乗り気すぎて止まれない。
そしてそれ以上に不快な視線が気になる。
まぁ雨の中短いスカートで歩いてたら、そりゃ色っぽいだろうし、元男だから気持ちはわかるよ?
でもマジでやめて。女になってわかる不愉快感が突き刺さる。
そんな不快感に苛まれていた時ーー
「ヒカリちゃん!」
「カルラくん!」
傘を差して走ってきたカルラが僕らに追いつき、僕とナナちゃんに傘を被せる。
「ごめんお待たせ」
「大丈夫! それより、中々見つからなくて……」
簡単に見つかるとは思ってないけど、親が探してるって目撃情報すら入ってこないとは思ってなかった。
「っクシュン!」
「ヒカリちゃん大丈夫?」
「私は平気! それより、お母さん探そう!」
ちょっと寒いけど、ナナちゃんはもっと寒くてもっと辛いんだ。
カルラくんも来たし、もう少し頑張ろう。




