78話 お金が引き寄せるもの
「じゃあ、お金のお勉強を始めます!」
「おねがいします!」
公園にあった丸太椅子に座り、ポシェットから取り出したお金を切り株机に並べる。
「これどーか!」
「そう、これは銅貨!」
さっき買ったクッキーをポリポリ食べながら指さして元気に答える。
「じゃあこれは? さっき見たやつだよ?」
「えっと……ぎんか?」
「そう! 頭いいね!」
「えへへ! コウ凄い?」
「凄いよ! 流石ヒカリちゃんの弟!」
全力で頭を撫でて、無邪気に喜ぶコウくんは照れている。
マージで可愛い。
「これは初めてみるね? なんだ!」
「これ……なあに?」
頭にハテナを浮かべて首を傾げる。
「これはね、金貨って言うんだよ?」
「きんか?」
「そう! とても大きなお金だよ!」
「おかしたくさんかえる?」
「食べきれないくらい買えちゃうよ!」
「すごい!」
金貨に関してはあまり人様に見せびらかしていいお金じゃないけど、コウくんの好奇心と私の庇護欲には抗えなかった。
「ありあしゃん、このどーか大きい!」
「それはね、大銅貨って言うんだよ?」
「だいどーか?」
「そう! 銅貨よりも大きくて、銀貨より小さいお金」
「……むずかしい」
コウくんは頭を抱えて唸ってる。
(私もこれ頭抱えたな……)
お金を習ったばかりの自分を思い出して懐かしい気持ちになった。
これに関してはヒカリちゃんの理解力が凄かった。何せ聞いて直ぐ覚えちゃったからね。
「銅貨が十円! 大銅貨が百円! 銀貨が五百円! 大銀貨は千円! 金貨が五千円! 大金貨が一万円!? 一円と五円と五十円どこぉ!?」なんて言ってたっけ?
よくわかんないけど、面白かったな?
「お金の計算は、お家でゆっくりやってもいいかもね?」
「うん、でもたのちかった!」
「うん!」
お金をポシェットにしまい、買ったクッキーを一緒に食べ、公園でコウくんとのんびりおしゃべりを始める。
(幸せだなぁ……)
そんな風にのほほんとしていたらーー
「いやぁ、こんなところで女子供で二人なんて不味くない?」
「そうだよね? もう声掛けてって言ってるもんだよね?」
「あぁあ、運ないね本当!」
空気を壊す男の声が三つ。
「え……え? ありあしゃんのともだち?」
「ううん、違うよ?」
こんな誰の目にも届く公園内で声かけるなんてどうかしてる。
コウくん凄い怖がってるじゃん。私の腕掴んで震えちゃってる。
「貴女達誰?」
気怠い気持ちをそのまま声に乗せて吐き出す。
「そうだね、俺たちお金に困ってて、少しくれたら答えるけど……早く寄越してくんね?」
「……」
なるほど、お金のお勉強してるの見たから来たな。
ここにいたのヒカリちゃんじゃなくてよかった。絶対お金と一緒にヒカリちゃんもお持ち帰り案件だったよ。
「俺らセルライト公爵様の領地に住んでるんだけど、あの領主横暴でさ、俺らのお金が足りなくなっちゃってんだよ」
「な? 王国の外のこと全然気にかけてないのかね?」
「君もそう思わない?」
「……」
服装は綺麗な平民の服。お父様は時々外の領地に足を運ぶし、私も行ったことあるけど、不満を漏らしてる人は殆どいなかった。
そして、領地に住んでいるって言う割には、お父様の名前じゃなくて、家名を言っているあたりーー
ちょっと羽目を外しすぎて金欠になった人、ってところかな?
「ありあしゃん……!」
「大丈夫よ?」
気付けば涙目になっているコウくんの頭を撫でて落ち着かせる。
「学園内にもバカな平民っているけど、学園の外にもいるとは思わなかった」
平和を維持するって難しいんだな。
「おい、今バカって言ったか?」
「人前だけど、誘拐とかしてもいいんだぜ? どうせ追跡なんて出来やしねぇんだから」
「なんなら誘拐でもいいんじゃね? かなりいい女だしよ?」
「別に誘拐してもいいけど、私のお父様が黙ってないわよ?」
そもそもこの人たちに誘拐なんて度胸は持ち合わせていない。
中流階級の平民っぽいけど、中途半端に貴族の知識をつけた人には『公爵』の名前がよく刺さる。
「私のお父様『メロード・セルライト』って言うのだけど、ご存知よね?」
「……は?」
「え!?」
「お前公爵家の!?」
『メロード』の名前に反応しなかったあたり、本当に中途半端だ。
「別に今から護衛を呼んでもいいのよ? 女子供二人でこんなところにいるわけないでしょ?」
「おいヤベェぞ」
「逃げようぜ?」
「しゃーねぇか!」
「はいはい、とっとと消えて」
存在しない護衛をちらつかせ、顔すら見てないから追跡なんて出来るはずもなく、取り敢えずこの場を切り抜けた。
「はぁあ、怖っ」
実際手の震えが止まらない。
あんな風に男性に囲まれるのは流石に初めてだ。
「ありあしゃん……!」
「もう大丈夫よ?」
コウくんの頭を撫でてどうにか癒され、気持ちが回復していく。
こう言うのって夜に起こる事件だと思ってたけど、違うのかな……。
「ユアンに話したら警備手厚くしてくれるかな?」
気付けば雲行きは怪しくなっており、雨が降りそうな天気だった。




