73話 ヒカリ・テンライトお祖母様
その日の夜。
「ねぇお母様」
「どうしたのヒカリ」
「今日、お母様と寝てもいい?」
「あらどうしたのヒカリ? 急に甘えん坊さんになっちゃって」
「そんなんじゃ!……ただ、お祖母様ってどんな人か聞きたくなっちゃって」
「……トワから聞いたわね?」
「はい。もう、亡くなったことも……」
「そうね〜?」
うーんと悩む仕草をしながら、手を繋いでいたコウを抱き上げる。
「コウ、今日はお父様と寝る?」
「あい!」
「よし、じゃあ執務室まで、よーいドン!」
「どーん!」
お母様の合図に合わせて腕から飛び降り、コウが廊下をダッシュ。
「コウ様お待ちください!」
偶々近くにいたメイドが大慌てで後を追い、僕とお母様は「ごめんね〜」と去った後に二人に謝った。
そして自室に戻り、久しぶりにお母様とベッドを共にする。
「どこから話そうかしら……」
隣で横になるお母様は、古い記憶を呼び起こすように目を瞑る。
「私のお母様『ヒカリ・テンライト』は、物凄く強情な人でね、ヒカリとは正反対だったわ?」
「強情?」
「えぇ。でも、間違いを素直に認める人でもあったわね?」
聞いてる限り、いい性格ではあるけど、あまり人に馴染めそうになさそうな性格っぽそうだ。
「私のお父様『セカイ・テンライト』と結婚した理由も、政略婚って言ってたわね?」
「それって……辛くないんですか?」
「わからないわ? 私の知ってるお父様とお母様は、よく喧嘩してたけど、別に傷つけあってたわけじゃないから」
あくまで意見の擦り合わせ上での衝突なのだろう。本当の喧嘩だったら、子供は察知する。
「でも、幸せだったと思うわ? 亡くなる前に『まだ死にたくない』って言ってたもの」
「……」
「仕事のやり残しなのか、家族を置いて行けないなのか、どっちかわからないけど、幸せじゃなかったらそんな言葉でないもの!」
僕の頭を優しく撫でながら、故人のことを楽しそうに話す。
「素敵なお母様だったんですね?」
「素敵というには棘が鋭過ぎたけどね? 今の内緒ね?」
ふふっと笑って失言を誤魔化す。
「トワも随分お母様に泣かされたけど、その分芯の強い淑女になったわね? 性格は全然違うけど」
「お母様もお祖母様と性格似てないよ?」
「あら嬉しいわ! あんな頑固な性格嫌だもの! でも、ああいう人に限って孫にはデレデレになったりするのかしら!」
こういう話をしていると、もう会えない人だけど、会ってみたかった。
「セカイ様とは会えないのですか?」
「お父様は今テンライト公爵家で執事長してるわね?『領地経営はロードに任せた』っていつかの手紙に書いてあったわ?」
「じゃあ会えるんだ!」
「機会があれば行くのもありかもしれないわね? テンライトは事業に手を出し過ぎて忙しいどころじゃないらしいから、今はちょっと難しいけど」
「じゃあいつかだね!」
「ね?」
気付けば僕は、四大貴族の全公爵家と繋がりを持っているらしい。
まだテンライトが直接関われていないけど、いつかお祖父様に会いに行ってみたい。
「もう一ついい?」
「何かしら?」
名前のことを聞いて、昔、コウの名付けの時のことを思い出した。
「なんであの時、私の名前はお祖母様からとったって言わなかったの?」
「あの時………………あぁ、コウの名前をつけた時ね?」
「うん」
別に名前の由来なんて誤魔化すようなことではないように感じる。
「あの時のヒカリはまだ五歳だったし、話すには早いかなって、咄嗟に適当なことを言ったわね?」
「お母様……」
まぁ気持ちはわかる。五歳児に故人の名前を託したなんて重くて言えない。
それに、今全部聞けたから変にモヤモヤもしない。
「さっ、もう寝るわよヒカリ」
「はい、おやすみないお母様」
「おやすみ」
おでこに唇が当たる感覚を最後に目を閉じて視界を閉ざす。
ヒカリちゃん、ちょっとヒカリお祖母様が好きかもしれない。




