72話 昔話
こんにちは、ヒカリちゃんです。
気付けばもう直ぐ十一歳。
時々アリアちゃんや、スーちゃんシャイナちゃんと遊んだり、コウのお勉強を見たりしていたら、あっという間に学園入学まで約一年。
おおよそ週一でトワ様監修の元、レオン様と魔法の勉強を始めて既に大詰め。
「そういえばトワ様」
「どうしたのヒカリちゃん、またレオンと町に行きたくなった?」
「お母様!?」
「違います!?」
「違うの……?」
「もう!」
超面倒臭いやり取りは全部スルーしてそのまま話し出す。
「もう家庭教師で習える魔法も大詰めですよね?」
「そうね……今日か来週でお終いかしら? レオンの入学準備もあるから、これ以上は少し難しいわね?」
「ならーー」
下手したら今日が最後の日なら、初日に聞きそびれたことを聞いておきたい。
「トワ様の……昔の話、聞きたいです」
「あ〜、そういえば魔法教え終わったら教えてあげるって言ってたわね?」
「……」
いや忘れないで! あの時の僕からしたら魔法より重要だったよ!
「じゃあ、長い話だし、今から教えてあげるわ? レオンも聞いてなさい。きっとこれは、人としての在り方を左右する話よ?」
「わかりました」
皆んなで庭の芝に腰掛け、トワ様はゆっくり話し出す。
その日、私の家は炎に包まれ、全てを無くした。
この頃の私『トワ』は、まだ五歳にも満たない子供だった。
自分の名前しか覚えていない、両親も『パパ』『ママ』と呼んでいて、名前すらわからない。
ただ一つ、二人は自分の身を犠牲にして私を火の手から守り、何気ない日常は灰になった。
「ママァァ! パパァァァ!?」
家がパチパチと燃える音より大きく泣き叫んでも、私の鳴き声は夜に掻き消されて届かない。
後から知った話だけど、両親は『貴族至上主義』の男爵の怒りを買ったらしく、制裁の意を込めて放火に及んだらしい。
私が一人彷徨っている中、知らない男性に声をかけられた。
「どうしたんだい?」
その優しい男性は、未来の義理の父『セカイ・テンライト公爵』。
「ママとパパがぁぁ!? 燃えちゃったぁぁぁ!」
説明なんてロクに出来ない。だけど事件を知っていたセカイ様が私の頭を撫で「辛かったね、苦しかったね」と何度も何度も優しい声をかけてくれた。
その後セカイ様に引き取られ、家族全員に事情を話して『家名すら覚えていないトワ』から『トワ・テンライト公爵令嬢』へとなった。
屋敷は『セカイ・テンライト公爵』『ヒカリ・テンライト公爵婦人』『フィリア・テンライト公爵令嬢』『ロード・テンライト公爵子息』の四人家族の公爵と、沢山のメイドと執事で溢れてた。
「……え、ヒカリって」
思わずトワ様の話を遮る。
「そうよヒカリちゃん。貴女の名前はお母様から繋いだ名前なのよ?」
「繋いだ……?」
「もう亡くなられてしまったわ。少し働きすぎてしまって、無理が祟ったのよ」
「……」
過労死。こっちの世界にもあったなんて……。
「私はテンライト公爵家の養子になって、死に物狂いで勉強したわ? 勉学も、淑女教育も、音楽教育も」
「お母様……」
懐かしいな〜、と言わんばかりの顔をしているけど、そんな優しい世界じゃないことくらいわかってる。
「でもね、幾ら公爵家の人間になっても『連れ子』ってだけで、虐めの対象になっちゃうのよ。侯爵家の人間は本当に面倒くさかったわね? ことある毎に『元平民のくせに』『公爵のひっつき虫』とかね?」
「うわぁ……」
いつの時代も悪口のレパートリーって変わらないんだな。
そういえば『こうしゃくの名を持たないのに婚約者が〜』とか色々言われたな〜、あのお茶会で……。
「だからね、魔法が必要だったのよ」
「……なんでそこから魔法に?」
「ふふっ、魔法は気持によって左右される、気持ちを作るのが大事って言ったわよね?」
「はい……」
それのおかげで、初日は魔法が十五分も保たなかったからよく覚えている。
「だからね、魔法を使って気持ちを鍛えるの。『なんて言われようが気にしない。私は私だって』」
「……」
「ヒカリちゃんは確実に侯爵家に絡まれるから、自分の気持ちを強く持って欲しいの。全てを失った後、ちゃんと幸せを手に入れた先輩からのアドバイスよ?」
他人の評価は気にしない。この世界にその考えがどれだけ浸透しているのかわからないけど、僕の場合は人一倍その考えを強く保たないといけないっぽい。
「これが私の昔話。ちょっと難しかったかしら?」
「そんなことありません。ありがとうございます、話してくれて」
「良いのよ? ヒカリちゃんにならなんだって話してあげるわ? レオンがヒカリちゃんのことどれだけ好きかとかね?」
「お母様!?」
「あはは……」
この王妃様、人としてちゃんと芯の通った強い人だ。




