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68話 ミクロライト公爵家


 その日の夕方。


「大変ですヒカリ様!? ミクロライト公爵様からぁ!!」


 ノックもせずに大慌てで僕の部屋にミューゼが入ってきた。


「すごーく久しぶりに慌てるミューゼを見たわね……」


 実に六年ぶりである。


「そんなことはともかく! 直近一週間以内に家に来て欲しいと連絡がぁ!?」

「ミューゼ、少し落ち着いて?」


 この執事、お父様がどんな仕事してるのかわからないけど、留守でも任せられるほど有能なのに、想定外に弱過ぎる。


「ちょっと手紙見せて頂戴?」

「かしこまりました……」


 震えるミューゼから手紙を受け取り内容を見る。


「……なるほどね?」


 つまり、お茶会のお誘いだ。しかも一対一で。


「…………」


 なんか、やったか? シャイナちゃんの逆鱗に触れたか? もしかして今日のキス見られてた?


 いや落ち着け、あのシャイナちゃんだ! ただ一緒にお茶を飲みたいだけかもしれない。


 きっとそうだ! だって公爵なんて媚び売る奴ばかりと関わって来てウンザリってアリアちゃんも言ってた。


「明後日行くって手紙出して頂戴」

「かしこまりました」


 そもそもシャイナちゃんと一対一で話すことすら中々ないのに、やけに緊張してしまう。



 そんなわけでソワソワしながら時間を過ごし、あっという間に当日が来ました。


 すげぇ緊張します……。





「初めまして『ヒカリ・ウィンガート』と申します」


 当日、残念ながらお父様とお母様は仕事、ミューゼとシャルも手伝いで来れず、一人でミクロライト公爵家に参ったわけですが……。


「ヒカリちゃん緊張していますか? 初めましてはとっくに済んでるよ?」

「はい……シャイナちゃん、久しぶり……」

「ふふっ! ヒカリちゃん面白い!」


 淑女の礼とか全部忘れて、手を振って出迎えに来てくれた『シャイナ・ミクロライト公爵令嬢』。


 かっわいい! 癒しじゃん!


 赤いドレスが超似合う!


「今日は来てくれてありがとうね!」

「こちらこそ、お誘い頂きありがとうございます!」


 シャイナちゃんの手を借りてゆっくり馬車をおり、そのままエスコートされて屋敷に入場。


『ミクロライト公爵家』


 屋敷の大きさ自体は『ウィンガート伯爵家』より少し小さいが、庭の広さが段違い。


 いや、庭というより、大きな公園の方が近い。


「大きい庭……だね?」

「そうよね? 私もスーちゃんや他の侯爵家に行った時『自分の家の庭って大きいんだな』って知ったわ?」


 ここまで大きいと持て余しそうな気がするが、ちゃんと花は枯れずに咲いており、テラスの整備も行き届いている。


 庭師さんすげぇ……。


「さて、ヒカリ・ウィンガート様、ようこそミクロライト家へ! 歓迎するわ!」


 待っていた執事が玄関の大扉を開き、屋敷の応接室まで案内される。


 僕の到着に合わせて紅茶も用意され、扉の音も立てずに去っていく。


 すげぇ必殺仕事人。


「そんなに緊張しなくて大丈夫よ! 私はヒカリちゃんが元気かどうか気になったからお呼びしただけなのよ?」

「元気かどうか?」

「そうよ?」


 紅茶を一口含んでホッと息をついて、柔らかい視線を僕に送る。


「スーちゃん家で遊んだ後、ヒカリちゃんがドーン男爵とトラブル起こしたってスーちゃんから聞いてね? もしかしたら元気に振る舞ってるだけかなって」

「シャイナちゃん……!」


 心配だったから呼んでくれたの? 僕を元気づけるために時間を割いてくれたの!?


「でも、元気そうで良かったわ?」

「うん、心配かけてごめんなさい」

「本当よ! 心配したのよ!」

「ありがとう、シャイナちゃん!」


 変に疑ってしまったけど、この世界の公爵様はこういう性格の人たちだった。


 本当に、素敵な人たち。


「それからもう一つ!」

「もう一つ?」


 何の用事だろうか。


 その用事を聞く前に『ガチャリ』とノック音すらなく扉が開く。


「あ……ごめんシャイナ、お客様がいるとは……」

「おにいさま! 今日は友達が来るって昨日言ったはずですわよ!」

「え……シャイナちゃんの……」


 シャイナちゃんから初めて聞く張りのある声が響き、反射的に視線の先の人物を見つめる。


「えっと……はっ、初めまして!」


 急いで立ち上がって礼を一つ。


 シャイナちゃんと同じ綺麗な白髪で、センター分けマッシュヘアーとかいうイケメンにしか許されない髪型をしていた。


「初めまして『ミクロライト公爵家』の子息『ブライン・ミクロライト』と申します」


 紳士教育の賜物か、綺麗な礼を一つ魅せる。

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