66話 僕が『ヒカリ』だから
「待って!!」
「え?」
僕は咄嗟に声を上げた。
声を上げてしまったが、その後何を言えばいいのか考えていない。
謝ればいいのか? そんなことないって言えばいい?
それとも転生のこと話す? 元男だからって話すべき?
「あの……その……」
「ヒカリ?」
「違うの! ただ……」
上手く言葉が出ない。だって何も考えてないんだもん。
「ごめん……いや違う、ごめんじゃない!」
「どうしたのヒカリ?」
「えっと……ね……」
どれだけ必死に頭を回しても、何を言えばいいのかわからない。
「怖いの……」
「怖い?」
「うん」
だから、今心の中にある気持ちを全部吐き出すことにした。
「だって、レオン様は婚約者候補だけど友達だし、恋とかってよくわからない。それに、好きに……えっと……」
「ヒカリちゃん?」
「……」
元男を言い訳にするわけにはいかない。今の僕はヒカリちゃんで、女子としての気持ちが心にあることも理解している。
だって、僕が『ヒカリ・ウィンガート』なんだから。
「好きに……なるのが……怖いから……」
「えっと……怖いの?」
「うん……」
(ダメだ、くっそ恥ずかしい……)
元男が男性に恋心なんて抱くわけないって思ってても、もう十年ヒカリちゃんで過ごしてきたんだ。
『転生で女性になった』じゃなくて『生まれた時から女性』なんだから。
ちょっと、前世を大事にし過ぎたかもしれない。
ごめんねヒカリちゃん、もう少し向き合ってみるよ。
「レオン様は好き、かもしれない」
「言ってること滅茶苦茶だよ?」
「うっ……だって本心がわからないんだもん」
「何それ?」
行き場の失った気持ちを表すように、指で髪をいじる。
気付けば魔法で染めた白髪はピンク色に戻っている。
魔法をかけた時の気持ちから大きくかけ離れたらしい。
何せ十五分しか保ってない。
「ねぇヒカリ」
「何?」
レオン様の顔を見ることが出来ず、俯いたまま返事をする。
「僕はスティアやシャイナともちゃんと向き合って婚約者候補を選んでる。ヒカリにもそうしてるつもり」
「そうなんだね、ありがとうね?」
ぐちゃぐちゃな気持ちの中で言われても……嬉しいけどちょっとだけ待ってほしいよ?
「だけど……今から言うことは内緒ね?」
「なんですか……?」
俯く僕の耳元で、男らしい低い声でこう囁く。
「婚約者候補とか関係なく、僕はヒカリが好き。ヒカリが初めて王城に来てくれた日から、ヒカリが好きなんだ」
「………………なっ!?」
顔が爆発しそうなほど赤くなる。というか爆発寸前です。
無意識に聞こえていた足音や賑やかな声すら、全部掻き消えるほどに。
「今……言うの!?」
なんで初めて王城に来た時からなの? そんなに好かれる理由もわからないし、なんで誰よりレオン様の元へ通った回数が少ない僕なのか。
「だって、ヒカリはちゃんと気持ちを伝えても逃げちゃうから、逃げない今のうちに伝えておかないと」
「なっなっ……!?」
突然レオン様に手を引かれて走り出し、人気の少ない細い通りに入る。
深く入り切らず、ある程度人通りが見える位置で立ち止まり、僕に振り返る。
いろんな気持ちと突然のレオン様の言動に何もかも追いつかず、ただ目を回すことしかできない。
「わわっ!」
「ちょっと……深呼吸しよっか」
「うん……」
何故か一緒にレオン様も一緒になって深呼吸をして頭をクリーンにする。
この三十分にも満たない時間で色々あったな……。
元男子高校生はそう…………いや、もうその言い逃げは辞めるんだった。
十歳なりに自分を見つめ直すいい機会だったと思えばいい。
「落ち着きました」
「よかった。まぁ僕が色々急ぎ過ぎたせいなんだけど」
「そうですよ? まぁ私も逃げ続けたのが悪いんですけど?」
これから自分とどう向き合っていけばいいのか、後でしっかり考えないといけない。
「それはそれとして、何かお詫びとかした方がいいの?」
「えっと、何の?」
「ずっとレオン様蔑ろにしてきたわけですし、王族相手に無礼とかって……」
「うーん、じゃあ一つだけいい?」
「一つなら……まぁ」
レオン様の様子を見るに、きっと大して気にしてない。
「嫌ならちゃんと言ってね」
「?」
レオン様の言ったことがよくわからないままぼーっと見つめる。
「へ……?」
すると、レオン様は抱きついてきた。
抱きついてきた!?
細い通り道、誰も通らないような場所で、めっちゃハグしてきた。
凄いビックリですよヒカリちゃん! 前世でも異性とハグなんてしたことないのに!
「…………」
ただ、凄い鼓動は荒ぶってるのに、なんだろう。
(あたた……かい……)
ビックリするほど嫌じゃない。




