61話 派閥
「ヒカリ様、助けてくれてありがとうございました」
存分に泣いた後、気持ちが落ち着いたナツは再びお礼を言う。
「私は何もしてないよ。ナツが頑張ったの」
「そんなことありません。ヒカリ様が来てくれなかったら、本当にどうしようもなかった」
「うん……」
貴族の力って、良くも悪くも偉大だ。こうも簡単に人の人生を左右できる。
だからきっと、公爵家や王族はどこまでも誠実で立派なんだ。
だからこの国の最上位たる存在なんだ。
男爵の時と今日とで、身に染みて理解した。
「とりあえず、二人は多分アリアちゃんの家か私の家に向かうと思う。お父様にも知らせたいし、ユースとミューゼにも話さないと」
「はい……え、公爵家?」
「大丈夫、アリアちゃんは私の親友だから、ハイス子爵とは全然違うよ?」
「そ……その心配では……なくて……」
「あ、緊張する?」
「は……はい……」
まぁあんな極限状態の緊張の後に公爵家に行くって、ちょっときついよね。
「なら、私の家に行けないかアリアちゃんに聞いてみるよ」
「いいん……ですか?」
「そっちの方が安心でしょ?」
「ありがとう……ございます」
上手く回らない呂律で精一杯笑顔を作ってお礼をくれた。
「なんだかヒカリ様、公爵様みたい」
「え? 私アリアちゃんほど凄くないよ?」
「そんなことないですよ……さっきもアリア様の隣で堂々と……」
「あはは……あれは無我夢中で……って、ナツ?」
話の途中でナツは意識を失い、安心しきった表情をしていた。
「……私も意識失ったし、しょうがないか」
こんな形であの日のスーちゃんとレオン様の気持ちを追体験するとは思わなかった。
*
アリアちゃんが馬車を呼び、公爵家でなく伯爵家に連れていってくれないかとお願いすると、快く良い返事をくれた。
「本当、碌でもない貴族ばかりでヤになっちゃうわ?」
「あはは……同感」
一週間で二件も似たような事件に巻き込まれちゃ、どうしても嫌な印象はついちゃう。
「これだからスカラ派閥はいやなのよ!」
「スカラ派閥?」
「あ……ヒカリちゃんもいつか関わるから説明するわね?」
どうやら侯爵を中心とした派閥があるらしく、スカラ侯爵中心の『貴族至上主義』そしてオウ侯爵中心の『公平主義』の二派閥に分けられる。
『貴族至上主義』は言葉通り、貴族あっての平民。要するに『株主の貴族と労働者平民』といった感じ。
対して『公平主義』は、身分はあくまで称号の一つと考えている。『上司貴族と部下平民』といった感じ。
そしてウィンガート伯爵は『公平主義』寄りの考えだ。
そして四大貴族と王族も『公平主義』に基づいている。
「でもね、侯爵家は『貴族至上主義』がほとんどなの」
「そう……なんだ」
人数が多ければ慕う人も多い、なんて安直な考え方ではないけど、他の下級貴族にも浸透してる考えだってことは感じ取れた。
そしてもう一つ。『貴族至上主義』の中心のスカラ侯爵は、あのお茶会の日、僕の隣に座っていた。
関わりこそないが、お互いが認知済みで派閥も違う。
そして、一年歳上で、余程のことがない限り学園で会うことも約束された未来。
もしかしたら、あのお茶会で最後に聞き取った声の正体もーー
「大丈夫! ヒカリちゃんは私が守るから!」
「うん……」
侯爵相手には、流石にアリアちゃんやスーちゃん、シャイナちゃんの力を借りざるを得ない。
「ありがとう、アリアちゃん」
「良いのよ! ヒカリちゃんのためならなんだってやるわ!」
「あはは! 私も、アリアちゃんのためならなんでもしちゃう!」
少し落ち込んだ気持ちが戻ったし、しっかり事件も片付いたし、これ以上ナイーブになっても仕方ない。
「アリアちゃん、遊びの続き行こ?」
「うん! でもこの格好ーー」
「少しくらい大丈夫よ! アリィ!」
「そう……そうだよね! ヒイカ!」
バタバタとトラブルがあったものの、残り少ない時間、アリィとヒイカで下町遊びを再開した。




