59話 貴族の戦い方
「その服、随分と金は持ってるようだが、どれだけ金を積んでもお前は許してやらんぞ? 平民が僕に楯突くなんて許されると思うな?」
「は?」
今、メイ様が買ってくれた服を侮辱した?
「かなり顔はいいようだが、それだけで僕に楯突くとはな?」
「……」
「そうだ、土下座の一つや二つすれば、許してやらんでもないがな?」
「……」
『今許してやらん』って言ったばかりなのに、なんで意見変えた?
下級貴族は自分の言ったことすら数秒で忘れるのか?
「そうだ、兄上が今婚約者に困っててな? 平民、どうしても許して欲しかったら、兄上と婚約しろ!」
「……」
くっそデジャブなんだけど、そんなに僕って魅力的なのかな? 全然嬉しくないけど。
「おいなんとか言ったらどうなんだ!」
ずっと無言だったのが気に食わないのか、威圧するように声を荒げる。
「はぁ……」
あの男爵の、本気の怒りを経験したからか、この程度の威圧は全然怖くない。
「私からの要求は一つだけ、二人に謝って。それが出来ないならーー」
「口を開けばそれか平民!?」
「……」
男爵の時もそうだけど、平民に頭を下げるってそんなに嫌なことなの?
「顔が良いからって調子に乗るなよ! 僕は子爵だぞ! 平民風情が口出しして良い相手じゃねぇんだ!」
「そう。ナツとルカはそうかもね?」
「お前もだろうが平民!」
僕って意外と有名じゃないのかな? それとも顔をあんまり知られてないだけ?
まぁお茶会がどうのとかこの歳まで知らなかった身だし、そんなものか。
「下級貴族って、どこもこんな下品なのかな?」
「下品だと! 僕を侮辱ーー」
「下品よ? スーちゃんとかシャイナちゃんだったら、絶対にこんな態度取らない」
「あぁ、俺と誰を比べて…………シャイナ……ちゃん?」
「流石に知ってるよね? スティアちゃんとシャイナちゃん」
どう切り出そうか悩んだ末、スーちゃんとシャイナちゃんに頼ることになってしまったが、感の良い貴族なら公爵の名前を気軽に出した時点で、同じ公爵もしくは『ヒカリ・ウィンガート』の名前に辿り着くだろう。
「なぜ……公爵様の名前が出てくる!」
「何故って、友達だからよ、大切な友達」
「とも……だ……」
「……もう少し貴方が冷静だったら、私が誰かも気付けたかもね?」
「何を……言って……」
面白いほどどんどん青ざめていくハイス子爵。
「挨拶が遅れてすみません」
僕はスカートを摘み、淑女教育で習った礼を一つ。
「私、ウィンガート伯爵の娘『ヒカリ・ウィンガート』と申します」
「……そんな……まさか!」
察しが悪いですよハイス子爵。
「散々許さないって言ってましたけど、貴方にそのままお返しします!」
ナツとルカを庇うように一歩前に出る。
「何故……何故貴女様が……こんな……」
「何故も何も、大切な友達が傷ついてたら助けるのが当たり前。『身分がどうなんて関係ない』」
平民だの子爵だのと喚いていた人にはわからないだろう。
「そうでしょ、アリアちゃん?」
「当たり前でしょ!」
「アリア……セルライト公爵様!?」
ハイス子爵が大慌てで振り返ると、穏やかな笑みを浮かべるアリアちゃんが歩いてくる姿を見つける。
「ヒカリちゃん、いつこんな戦い方覚えたの?」
「ちょっとね?」
流石にここで男爵に遭った出来事を話すわけにはいかないけど、あの一件で戦い方は充分に学べた。
アリアちゃんは膝をついてぐったりしているルカを見つめる。
「あなた、同じクラスよね? 確か……」
「ルカと申します、こんな姿での挨拶でーー」
「気にしないわ? ヒカリちゃんの友人ならなおのことね?」
「ありがとう……ございます」
アリアちゃんは立ち上がって膝の汚れをパッパと払う。
こんな動作、目の前の子爵なら絶対にしない。絶対に親身に寄り添わないから。
「さて、申し開きがあるなら聞くわよ? ハイス子爵」
ハイス子爵は、こちらを見ることが出来ない様子だ。




