58話 追体験のような出来事
「ありがとうございました!」
アリィとのんびりお話ししてからカフェを出る。
結構入り浸っていたらしく、二時間も時間が過ぎていた。
「楽しかったぁ!」
ずっと座りっぱなしだったのもあり、少し身体が軋んだが、アリィは満足したようで、伸びをしながらも満面の笑みだった。
「私も楽しかった!」
前世含めても初めての体験で、心が弾まずにはいられなかった。
誰かとおしゃべりって、こんなに楽しい時間だったのか。
「ねぇ次は……あっ……」
「アリィ?……あっ」
思わず言葉を失ったアリィの視線の先には、揉め事を起こしている三人。
一人はよく知らない人、というか持ち馬車があるから恐らく貴族だ。
そしてもう二人は、僕がよく知っている二人。
ナツと、ルカだ。
そういえば昨日、ルカはアリアちゃんと同じクラスって言ってたっけ。
それよりもーー
(なんで、ナツ泣いてるの……?)
「ヒカリちゃん」
「…………」
「ヒカリちゃん!!」
「う……うん!?」
ふと我に返った僕は慌ててアリアちゃんを見つめる。
あえて伯爵の名前で呼んだアリアちゃんは、あの抗争を止めるらしい。
(もしかして、あの時のスーちゃんもこんなに怒ってたのかな?)
僕が男爵の抗争に巻き込まれた時も、今の僕と同じように途方もない怒りに呑まれそうになったのかな?
今すぐ助けに行きたい衝動をどうにか抑え、さっきまでいたカフェに急いで駆け込み、ちゃんと許可を得て、念のため持って来ていた『よく目立つ服』に着替える。
理由は単純。こっちの方が貴族が好む平民服だからだ。
「アリアちゃん、あの二人私の友達だから、先に行くね!」
「うん、ごめん私、一人で着替え慣れなくて、時間稼いでて」
「うん!」
貴族っぽい悩みは前世の記憶を持つ僕には大したことなく、速攻で着替えて抗争の現場まで駆け足で乗り込む。
(絶対……許さない……!)
*
「ルカ大丈夫!?」
「うん、なんとかね」
頬に傷を負い、ぐったりと尻餅をつくルカ。
「なんでこんな酷いことするんですか!」
ナツはポロポロ涙を溢して目の前の貴族に声を荒げる。
「お前が僕を軽んじるからだ!」
「軽んじるって、学園では皆平等なのよ! それなのにーー」
「ここは学園じゃなくて下町だ。今日は学園も休み」
「っ……!」
言い負かされた、というより、学園でない以上、貴族に刃向かうのは自分や家族の身が危険に晒される。
だからこれ以上何も言えない。
「ナツ、お前はあいつより僕と付き合うべきなんだ」
「……ヤダ」
「は?」
「私は、こんなことする貴方は嫌い……」
「き……嫌っ!?」
「……」
遠くから聞いてすぐに察した。
(あいつが、ナツに強引に迫ってたって言う貴族か!)
確か子爵だ。アリアちゃんどころか僕より身分が低い。
こんなことしたくないけど、身分を傘に着てるようなやつなら、僕も伯爵の身分を大いに振るってやる!
権力行使だ!
「そこまでにしてもらってもいい?」
「なっ……誰だ!」
「へ……ヒ……ヒカーー」
「シーっ!」
ナツが名前を言う前に人差し指を口元に立てて口を塞がせる。
今『伯爵』とバレたらダメだ。
スーちゃんがやってたみたいに、一番大事な時に刺さないと。
「ルカ大丈夫?」
子爵を無視してぐったりとしているルカに駆け寄る。
「僕は大丈夫です、それよりナツは」
「私は何もされてないよ! ルカの方が――」
「おい平民ども! 僕の話を遮るな!」
偉そうに怒鳴り散らかす子爵。
「ナツ、あの人は?」
名前覚えたくないけど、これからレスバするんだ。しっかり名前を覚えて丁重に追い詰めてあげないと。
「昨日話してた貴族の、ハイス子爵です……」
「ありがとうナツ、後は任せて!」
ゆっくり立ち上がり『ハイス子爵』を睨みつける。
「なんだ平民」
「謝って」
「は?」
「私の友達傷つけたんだから、謝って!」
アリアちゃんは遠くで出所を伺っている。
自分が切り札って理解しているんだ。
「平民風情が、僕に指図するな!」
どうやら謝る意思はなし。
「そう」
さて、追い詰め開始です!




