57話 ヒイカとアリィ
「すごーいぃ!!」
アリアちゃんは目を輝かせて下町を歩き回る。
「学園生活始まったし、いつも見てるでしょ?」
「そうなんだけど! やっぱりヒカリちゃんと見て回るとさ、ね!」
「あはは」
語彙力失うほど楽しそうにしている。
「それに、平民として町を歩くのと公爵の娘として歩くのって、違う気がするんだよね?」
「それは……確かに」
一人で町歩きしてバイトした時も、無意識的に身分隠した名前を使った。
あの時は気付かぬ間に張っていた緊張を緩める良い機会になった。
おかげであのクソ男爵にーーって止めよやめよ! 今日はアリアちゃんと楽しむ日なんだから!
「ねぇアリアちゃん」
「ヒカリちゃん?」
「今日の私はヒカリじゃなくて、平民のヒイカだよ!」
「ヒイカちゃん?」
「そう!」
あの時使った偽名をそのまま流用し、ヒカリ・ウィンガートを脱ぎ捨てる。
「じゃあ私は……アリィ?」
「うん! 良いと思うよアリィ!」
「なんか、楽しくなってきたかも!」
アリアちゃんも今日はアリア・セルライトを止め、平民のアリィとして下町を歩く。
こんななんてことない変化でも、不思議と心と足取りは変わるものだ。
「ねぇヒイカ、あれみたい!」
「うん! 行こアリィ!」
アリィと共に路上劇の人だかりに突っ込む。
(なんか、懐かしいかも……そういえば、あの時も……)
四歳の時、レオン様を下町に連れ出した時も路上でやってた人形劇の人だかりに突っ込んだっけ。
「よく見えないね?」
「ね?」
あの時は護衛の人が肩車してくれたからよく見えた。
「アリィ、前行こ!」
「え、ちょっとヒカリちゃん!?」
偽名すら忘れて人を縫って前の方に出る。
その劇は、内容こそ違えど前の時と同じ人形劇。
「私あれ知ってる! 学園で習った有名なお話だ!」
「そうなの?」
曰く、無邪気な子供が大人になるまでの成長を書く、子供と大人の心の差を表したものらしい。
「言語の講義で使われる題材って言ってたわ?」
「心の差……」
大人になり切る前に前世を終えた僕には、きっと読み解くのに苦労するかもしれない。
気付けば人形劇は終幕し、大きな拍手と投げ銭の音に包まれていた。
「面白かった!」
「うん!」
まぁ面白かった。ちょっと考えさせられたけど、今は無邪気な十歳なんだし、壁にぶち当たった時に考えよう。
なけなしのお金を投げ、再び町歩きを開始。
「なんか楽しいね!」
「アリィ?」
「ヒイカ、ちょっとやばい!」
「何が!?」
「なんか、なんでも!」
「アリアちゃん落ち着いて!?」
めちゃ抱きついてきた! なんで!?
もう完全にアリアちゃんがアリアちゃんじゃないけど、今日くらい……良いのかなぁ……。
自分で提案しておいてなんだけど、羽目外し過ぎて普段が窮屈にならないか心配。
取り敢えず荒ぶりすぎた気持ちを落ち着かせるために手頃なカフェっぽい店に入る。
「いらっしゃいませ、可愛いお客さんですね?」
「こんにちは!」
「こんにちは? お席に案内しますね?」
店員のお姉さんに案内され『VIP』と書かれた扉を通り過ぎ、なんの変哲のない席に案内される。
「ご注文はこちらのベルでお呼びくださいね?」
ニコリと笑みを投げかけて去っていく。
「ふ、不思議な気持ちだわ……?」
「アリア……アリィちゃん?」
ムズムズした様子であたりを見渡す。
「お父様やお母様と出かける時もVIPルームに案内されて来たから、こんな空気でヒカリちゃんと食事が出来るなんて」
「学園では違うの?」
「学食って制度はあるけど、どうしても皆んな『公爵』が気になるみたいで」
「アリアちゃん……」
公爵は公爵で生きづらいんだな。
「だから今凄く楽しいの! ヒイカは?」
「私も……凄く楽しいよアリィ!」
こうしてみると、日本ってかなり平等で恵まれてたんだな?




