56話 いざ下町へ
あれからナツとルカと軽く雑談し、コウのお勉強の時間も終わり、特別何かする事なく別れを告げた。
そして翌日。
「お父様! 早く行きましょ!」
ようやく、本当にようやくアリアちゃんと下町に遊びに行く日だ。
この一週間本当に長く感じた……。
主にあのクソ男爵のせいで!
「ヒカリ落ち着きなさい」
お父様もせっせと準備をし、ミューゼが「仕事はお任せください」と一言残して、僕とお父様は一緒に馬車に乗り込む。
四歳以降ミューゼの慌ただしい声を聞くことはない。
本当に有能なんだなって思い知ったけど、今はそんなことよくて!
「今日はフィリアとシャルもプライベートで遊びに行ってるし、屋敷が静かになるね」
「羽目を外し過ぎないよう言葉は添えておきます」
「ミューゼは真面目だね? なんなら今日仕事しなくても良いんだよ?」
「気が向いたら筆を置かせていただきます」
そんな細やかなやり取りを済ませて馬車が発つ。
「ミューゼって働きものね?」
「僕が子供の頃からずっと隣にいてね。フィリアで言うシャルみたいな存在なんだ」
「ミューゼもそんな昔からの付き合いなのね?」
「二人は、僕らにとっても屋敷にとっても必要な存在だ。偶には手を抜いても良いんだけどね……?」
最近はシャルともあまり関われていないが、ミューゼもシャルも、もっと関わる機会があれば良いかもしれない。
シャルに至っては既婚者子持ちのはずなのに、シャルの子供にあったことない。
「二人って、凄いんだね?」
「そうだね。平民に自由意志がなかったら、今頃王城で働いてたかもね?」
「凄っ!」
ガチでエリート街道行ってたかもしれないのか。
そんな会話をお父様としていたら、気付けばセルライト公爵家正面玄関に到着。
因みに僕は没個性の平民服を着ています。
ドレスで来ようかと思ったけど、お父様が前日に『平民服で来て!』という手紙が届いたらしいが、念の為、メイ様に買って頂いたもう一つの平民服は持参した。
そんなわけで平民服で馬車を降り、相変わらずメイドや執事の綺麗なお出迎えに誘われて屋敷に入場。
「ヒカリちゃんいらっしゃい!」
「アリアちゃん!」
アリアちゃんも同じように没個性の平民服を着ている。
「私もう行けるけど、ヒカリちゃんは?」
「私も行けるけど……」
お父様に視線を移すと、何も言わずに頷く。
(これは行って良いってこと……か?)
「アリアちゃん、念のためもう一着のも持ってきたけど」
「そうなの? じゃあ私も持っていく!」
有無を言わさず去っていき、一分待たずに戻ってきた。
「お母様お父様! 行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
「気をつけるんだよ」
「行こヒカリちゃん!」
「い、行ってきます!」
「ヒカリも気をつけてね?」
屋敷に着いて一分、アリアちゃんの興奮に任せて腕を引かれ、お互いもう一着ずつ持って下町へと駆け出す。
*
「こうして誰かとお出かけするの初めて!」
アリアちゃんは屋敷を飛び出して数秒でそんなことを言い出した。
「お茶会とはいろんな人としてきたけど、皆んな媚び売ろうとしてばっかりで、つまんないんだよね?」
「お茶会……」
僕はお茶会なんて開いたことないし、行ったのも婚約者候補が集ったあの一回だけ。
「ヒカリちゃんって、立場とかあまり考えてなさそうだから、私も凄く気持ちが軽くなるの!」
「アリアちゃん……!」
未だに前世の感覚が強い僕は、身分なんてロクに意識しない。
それが、アリアちゃんの一番深い心に刺さったんだ。
「アリアちゃん、今日は沢山遊ぼうね!」
「勿論よ!」
お互い走り出したい気持ちを抑え、立場を家に置いてきた僕らの下町遊びが始まる。
今日のこと、凄く楽しみにしてたんだから、本当に何も起きませんように!




