54話 庇護欲
「どれから着るの?」
「うーん……どれならヒカリちゃんに似合うかな?」
「え、私が着るの?」
話の流れ的にシャイナちゃんが着るものかと思ってたけど。
「私『妹がいるのって良いな!』って思ってたのよね? お兄様の気持ちってどんなんだろうって」
「あはは……」
すげぇニコニコしてるけど、ちょっと怖い気。
そしてシャイナちゃんは妹らしい。メモメモ。
(って、妹? 元高校生が? 大人っぽいとかじゃなくて?)
「それじゃあ、着回すわよ!」
「ちょちょっ!?」
僕の困惑は置き去りにされ、スーちゃんの元気な声が合図に、メイドたちがせっせと僕を弄り倒す。
「よく似合ってるわよ!」
「凄くお似合いです!」
「シャイナ様もどうぞ!」
「スティア様は着ないのですか?」
そんなこんなで、メイドにとっての極楽タイムが繰り広げられること二時間。
「疲れた……」
平民服に戻った僕は超ゲッソリしていた。
まだ元気なスーちゃんとシャイナちゃんは自分に合ったドレスを探している。
(こうしてみると、十歳なんだよな……)
昨日の男爵への対応の時は、子供とは思えない程目つきが鋭く声が張っていたのに、今のスーちゃんは無邪気で可愛い女の子。
あの時は前世の僕より年上に見えたのに、今では今世の僕より年下に見える。
「平和だ」
僕は少し溜まった疲れと目の前の微笑ましい光景に安心感を覚え、気づけばうたた寝していた。
「ねぇヒカリちゃんはどれが……あ」
「スーちゃん? あら〜!」
二人も僕がうたた寝しているのに気付き、微笑ましそうに笑い合う。
「ヒカリちゃんって不思議よね? なんでか助けてあげたくなっちゃうわ!」
「わかるわ! 同い年なのに年下みたいよね?」
「スティア様、シャイナ様、それは『庇護欲』と言うのですよ」
「「ひごよく?」」
声を揃えて、二人揃ってうたた寝する僕を見つめる。
「……ん?」
そんな視線に気付いた僕はゆっくり目を開いて二人を見つめる。
「おはようヒカリちゃん!」
「おはようす〜ちゃん! シャイナちゃんもおはよっ?」
眠たいながらもへにゃりと笑い、二人が固まっていることに気づく。
「こ……これが『ひごよく』!」
「ヒカリちゃん、可愛いわね!」
「え……え?」
何も理解出来なかったけど、うっとりしている二人がそこにいた。
*
「ただいま!」
「あ、お母様戻ってきた!」
屋敷にスーちゃんのお母様の声が響き、屋敷でワタワタしてた子供三人がはしたなく廊下をかける。
「お父様お母様、おかえりなさいませ!」
「まぁスティア! よく似合ってるわ!」
「お父様お母様! 私とシャイナちゃんも!」
「三人ともよく似合ってるわ!」
今三人でスーちゃんのお母様の作った黒いドレスを着ている。
さながら三姉妹のような風貌だ。
「そうだ! ねぇお母様、十二歳の社交界デビュー、お母様が作ってくださらない?」
「スーちゃん、そんなご迷惑をおかけする訳にはーー」
「良いじゃない!」
「…………良いんだ」
スーちゃんのお母様、とても寛大だ。
と言うか、これまで関わった公爵家が寛大だ。
まだテンライト公爵家とは関わってないけど、きっと寛大なんだろう。
「そういえば、社交界って何するの?」
「ヒカリちゃん知らないの?」
「私も知らないよ?」
「スーちゃんもなの!?」
シャイナちゃんは知っているようで、二人の反応に驚いている様子。
まぁ兄がいるらしいし、そこで軽く体験しててもおかしくはなさそう。
「なんか踊ってるイメージ」
「ふわっとしてるね? でも私たちは大体あってるよ?」
「私たちは?」
含みのある言い方だけど、僕らは何かしら条件から外れているのだろうか。
「人によっては社交界で婚約者探しするってお兄様が言ってました。私たちはレオン様いますし、候補から外れてもその後は『ひっぱりだこ』って! あってますか?」
「シャナイちゃん大正解よ!」
スーちゃんのお母様が頭上で手で丸を作る。
そしてどうやら、シャイナちゃんのお兄様には婚約者が既にいるらしい。
「私は婚約者候補から外れた時、嫌になるほど男性からアプローチきたわね? 懐かしいわ?」
「うわぁ……」
思わず嫌な声が漏れてしまったが、正直嫌だな。
元男とかじゃなくて、学園生活に支障が出そう。
「ヒカリちゃんなんて、特に目をつけられると思うわよ?」
「えぇ……」
「そうだな、僕が学生だったら、多分ヒカリちゃんは放っておかないかもしれないね? 婚約者候補だから手を出されないとは限らないしね? あくまで候補だから」
スーちゃんのお父様もそう言ってるんだし、間違いなく起こり得ることだろう。
なんか、学園生活が億劫になってきちゃった。
最早庇護欲より魅了だろ……。




