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50話 消えた身分による激情


「な……何故ウィンガート伯爵様が……!」


 あまりの衝撃に尻餅をついて倒れるドーン男爵。


 果たして何を言いたかったのか、そのままあわあわと口をもぐらせる。


「ドーン男爵もご存じですよね? ヒカリちゃんはレオン様の婚約者候補でもあり、アリア・セルライト公爵様の無二の友人。私も、シャイナ・ミクロライト公爵様も大変良い関係をしておりますの?」


 いつもの傲慢な口調とは違う、外行きの口調だが、それがスーちゃんの怖さを加速させている。


「三家の公爵家を敵に回す行為なので『知らなかった』では済みませんわ?」

「っ!?」


 ドーン男爵はそのまま力を抜いて道路に寝転んだ。


 全て終わったと悟って、力が入らなくなってしまった。


「お、お父様……」


 ようやく息子が声を上げるが、その一声だけで再び沈黙。


「全く『平民は国の宝』って習わなかったの?」


 スーちゃんはいつもの雰囲気に戻り、寝転ぶ男爵に背を向ける。


「ヒカリちゃん、大丈夫よ!」

「ス……ズーじゃん……!」


 十歳児のヒカリちゃん、もうメンタルが限界で必死に堪えていた涙が滝のように流れ始める。


「ご……ごわがっだ! ごわがっだよぉ!」

「もうヒカリちゃん泣かないの!」


 震え止まらない身体で全力でスーちゃんに抱きつく。


「う、こわかったぁぁ!」

「うわああぁぁん!」

「えぇぇぇええん!」


 僕に隠れてうずくまってた三人も一斉に泣き出し、レオン様が必死に慰めていた。


「ヒカリちゃん頑張ったんだから、堂々と笑ってないとダメよ!」

「うぅ、がんばっだぁ!」


 今笑うのは無理だから、暫く泣かせてくださいスティア様ぁ。





 とりあえずひと段落ついたが、僕は一つだけやり残していた。


「お父様、取り敢えず帰りましょう」

「あぁ……」


 ドーン男爵は息子の手を借りて立ち上がり、馬車に乗り込もうとする。


「あのっ!」

「ヒカリちゃん?」


 その前に僕が男爵に声をかける。


 抱きつくスーちゃんを離して立ち上がる。


「この子たちに、謝ってください!」


 無意識に震える手を握り、まだ止まらない涙を拭い、消沈している男爵に視線を刺す。


「行手を塞いだ、危なかったって嘘じゃないですか!」

「……」

「私もこの子たちも……ドーン男爵が通る前には退いてました! だって、危ないって思わなかったもん!」


 本当に危ないと思ったら、馬車通過前に少し話す余裕なんてなかった。


「この子たちに、謝って! 怒鳴ってごめんって、謝って!」

「この……小娘!」


 消沈していたのに、沸騰し始めたかのように顔が赤くなり始める。


 スーちゃんとレオン様は、今は僕のターンだと言わんばかりに僕だけを見つめ、静かに様子見をしている。


「はぁ…………」


 深いため息を一つ吐き、物凄く嫌そうに、そっぽを向いて一言。


「ごめんなさいね……」

「……へ?」


 僕は思わず一声漏らす。


(それが…………謝罪?)


 こんなのまるで、子供の我儘……。


「そんな謝罪で……良いわけーー」


 僕も頭に血が上りかけ、抗議しようとした時ーー


「「「調子に乗るなよ小娘がぁぁぁ!!?」」」

「っ!?」


 ドーン男爵は、僕らを怒鳴った最初の時より大きな声量で僕に怒鳴った。


 もう貴族の座は追われることを確信しているのか、そこから先のドーンは卑劣だった。


「「公爵に気に入られてつけ上がった小娘風情が! 何偉そうに物言ってんだ! ガキが大人に文句を言うな!」」


 目に血柱が立ち、握り拳は怒りに震え、怒気に任せて叫ぶ。


 怖過ぎて足が震えて、鼓動が警告を鳴らし、呼吸が乱れそうになる。


 一歩ずつ近づいてくるドーンが、怖くて仕方ない。


「そんなの……関係ない……貴族とか公爵とか関係ない! 悪いことしたら謝らなきゃダメなの! この子たちは傷ついたの!」


 後退りしそうな足を強引に止め、恐怖に怯える心臓を武者震いと勘違いさせ、血柱走るドーンの目を見つめる。


「だから、謝ってぇ!!」

「この小娘!!」


 明らかに暴力を振るう姿勢だった。



 思わず目を閉じて身体が強張る。


 しかしーー


「ぐばぁっ!」

「へ……?」


 ゆっくり目を開くと、目の前にいたドーンは誰か若い青年に道路に抑えつけられており、僕はどこも痛くない。


「全く、レオン様の護衛なのに、まさか偶々出会した婚約者候補様を助けることになるとは」

「そういうものですよ? レオン様のお慕いする方を護るのも、護衛の一つですから」


 そしてもう一人、レオン様の隣に老年が立っていた。


「お久しぶりでございます『ヒカリ・ウィンガート』様。覚えておいでですか?」

「コメン……さん?」

「はい。今は第三王子の専属の護衛です」


 四歳のあの日、一緒に外に来た護衛の一人。


「なら……そちらの人は……」

「ゲンです! 礼が出来ずに申し訳ないですが、状況故お許しください!」


 倒れるドーンに手錠をつけ「捕縛完了」と爽やかげに呟いたゲン。


「レオン様、この辺りの始末は私とゲンに任せて、ヒカリ様のケアをお願いいたします」

「ありがとう、爺」

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