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49話 怒髪天をついた二人


 怒りから鼻息を強く鳴らし、強く握りすぎた拳からか、腕全体が震えている。


(こ……怖い……!)


 本気で怖い。こんなに人から怒りを浴びるのは初めてで、青ざめるなんて言葉じゃ足りない。


 怒ってる理由もわからないから尚のこと怖い。


 道を塞いだ? 子供たちが走行路に入ってたから連れ出したのに、なんで塞いだことになってるの?


「平民風情が、男爵である私に無礼を働くなぞ!」

「だん……しゃく!」


 こいつ、貴族か! しかも男爵か! 概ね一番地位の低い貴族ってことにコンプレックスを抱えている。そんなところだろう。


 どれだけ怖くても、いや、怖いからこそ頭はよく回る。


 打開策が必要だと脳が本気で警告しているから頭はよく回る。


「あ……あの……!」

「ん、弁明があるなら聞いてやる」


 どうにか言葉を紡ごうとした時、馬車からもう一人、息子らしき人物が降りてきた。


「お父様、よく見たらその女、上物じゃありませんか?」

「ん?」


 目の前の中年は僕の顔をマジマジと見つめる。


「これは……ほう?」


 怖いぐらい口角が上がり、目から悪巧みを感じる光を放つ。


「いいだろう。私は寛大だから許してやる!」

「ゆ……許す?」

「そうだ! まぁタダでとは言わんがな?」

「……何を、すれば」


 まだ怖いけど、ある程度冷静になってきた。


 震える子供三人に気が向かないようにそのまま話を続ける。


「私の息子と婚約しろ。それで許してやる」

「……は?」

「聞こえなかったのか? 息子と婚約ーー」

「き、聞こえました! ですが私にはーー」

「口答えするな!!」

「っ!?」


 突然大声を出して怒鳴り、僕らの声を封じてきた。


「お前も貴族になれるんだ。これ以上寛大な処置はないだろう?」

「そ……それは……」


 何か言葉を発さないと。でも、また大声で怒鳴られたら怖い。


「お父様、早くその女連れて帰りましょう?」

「おぉそうだな? さ、早く立て!」

「い……っ嫌! 離してっ!」


 脳の整理が追いつかない。怖過ぎて条件反射でしかいえない。


(お願い、誰か助けて!)


 しかし残念ながら、あたりの人は同情の目を向けるだけ、あるいは関わりたくないから無理やり目を背けるだけ。



「この女ーー」


 中年が力任せに何か言おうとした時。


「あらあら、私の大切なお友達に手を出す愚か者がいるかと思えば、ドーン男爵ではありませんか?」

「あぁ? 誰だ私を愚か者呼ぶ……なっ! オーラライト公爵様!? それにーー」

「こんにちは、ドーン男爵?」

「レ……レオン第三王子様……!?」


 スーちゃんとレオン様という、この国で最上級の助け舟の声が聞こえた。





 スーちゃんはゆっくりと歩みを進め、中年の男性、ドーン男爵夫人の前に立つ。


「ねぇドーン男爵、言いたいことがあるなら聞くわ?」

「そ……それは……!」


 スーちゃんの言葉、弁明のチャンスに見えて、逃げ道を完全に塞ぐつもりだ。


「オーラライト様は、この平民とお知り合い……なのでしょうか……」

「いいえ? 知らないわ?」


 そう、僕は平民じゃなくて伯爵家の人間。


 スーちゃんは今、わざと僕が抱き抱えている子供たちと知り合いかどうか聞かれたと解釈したんだ。


 だって、この子たちは平民で、あの男爵は『この平民を知っているか』と聞いたから。



 そして、今の回答を聞いて少しホッとした様子の男爵は、もうこの先長くない。


「いやぁ、そこの平民が私共の行手を塞いでいたもので、少し叱咤をしていたのですよ。なにしろ轢いてしまっては困りますから」

「そうね、それは困るわ! なにしろ平民は国の宝なのだから、注意しないとね?」

「左様でございーー」

「でも!」


 スーちゃんの声が男爵の声を遮る。


「私の大切な友達に手を挙げる行為は見逃せないわ?」

「大切なお友達……? しかし、この平民とはお知り合いではないとーー」

「あら、ドーン男爵には、ヒカリちゃんが平民に見えるのね?」

「それは……どう言う……」


 ドーン男爵が僕を見つめる。


 気付けば隣にレオン王子がおり、必死に背中を摩って落ち着かせてくれていた。


「言ったでしょ? ヒカリちゃんは私の大切なお友達」


 スーちゃんはようやく切り札を使えると察し、目を光らせる。


「それに、無理やり結婚しろなんて言われるのを見たら、レオン様が黙っていられないわ? だって私もヒカリちゃんも、レオン様の婚約者候補ですもの?」

「……まさか、その平民、いや、貴女様は!?」


 男爵は全てを察して後ずさる。


「彼女は『ヒカリ・ウィンガート伯爵令嬢』だ。僕の大切な婚約者候補で、お前が触れていい存在じゃない」


 レオン様から聞いたことのない低い声が男爵に突き刺さり、ようやく、本当にようやく、男爵は自身のやらかしを理解した。

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