48話 平和な世界と残念な世界
「わああぁぁ!」
家の位置がわからなくならないよう、屋敷から真っ直ぐ歩き出し、風景を見つめる。
これは中世ヨーロッパの街並みっていうのだろうか。
しかし、どことなく太正浪漫の面影もあり、その二つの世界を足して二で割ったような空気感。
マジでポーン王妃とロンド陛下どうやってこの世界観中和させたんだ?
そんな面白い世界を歩くこと数分。
「美味しそう……!」
おしゃれな外装のカフェを発見。
「お嬢さん、うちの店に興味があります?」
「お金持ってないので入れないですけど、またの機会に訪れるかもしれません!」
店主らしき女性に声をかけられ、前世では絶対にあり得ないコミュニケーションを取る。
十歳児、まだまだコミュ力は健在です。
「なら、少し看板娘やっていきませんか?」
「看板娘?」
「えぇ! 貴女みたいな可愛い子が声かけしてくれればお客さんも立ち寄ってくれるし、働いてくれた分はケーキセットでお返しするわ?」
「良いんですか! 是非やらせてください!」
「ありがとう! 服がそのままでいいから、エプロンだけ付けさせて?」
元々誰かスカウトするつもりだったのか、肩掛けカバンからエプロンを取り出してヒカリちゃんに取り付ける。
「本当に可愛いわね? 貴女名前なんて言うの?」
「ヒカ……あ……」
「ん?」
「ヒイカって言います!」
「ヒイカちゃんね! 引き受けてくれてありがと! 三十分だけお願いね!」
「はい!」
思わぬ形で初バイト開始です!
いやマジで、前世含めて本当に初バイトです!
やることは単純、声かけして、お店に入って貰う、ただそれだけ。
(お客さんゼロ人でもないのに、よくやるなぁ)
「よし!」
両頬をポンと叩き、バイト開始の鐘を鳴らす。
「そこのお兄さん、ここのカフェのケーキ、凄く美味しいですよ?」
「ん?」
取り敢えず適当に歩いていた人に声をかける。
一切臆する気持ちが湧かないのは流石ヒカリちゃん。
そしてこんな可愛い子に止められた男性は思わず足を止める。
「カフェか、確かに最近行ってなかったからな……」
「お兄さんは今日はお休みですか?」
「そうだよ? 最近疲れてたから、気分転換に外の空気を吸いたくてね?」
「ならいっそのこと、カフェでリラックス! ですよ?」
愛嬌のある声と顔を全力で使い、おすすめしてみる。
「そうだね……これも何かの縁だし、お金の使い道もあまりないし、入ってみるよ」
「わーい!」
「可愛いバイトさんに勧められたら入るしかないね?」
「えへへ!」
よし、一人ゲット!
「おねえさん、ここのカフェ、凄く美味しいんですよ?」
そんな感じでひたすら声をかけて入ってもらってを繰り返して、気づけば三十分。
「お疲れ様! ありがとねヒイカちゃん!」
「つ、疲れました……!」
ようやく解放され、エプロンをとって席でくつろぐ。
結果自体は五人ほどしか店に招けなかった。
どれだけ可愛い子でも、苦労は尽きないんだな……。
「はいこれお礼! うちのおすすめセットだよ!」
「ありがとうございます〜」
へたれた身体を起こし、美味しそうなケーキを頬張り、甘い紅茶をちびちびと飲む。
「私も丁度休憩なんだけど、相席しても良い?」
「勿論です!」
「ありがとう! じゃあ前の席失礼するよ!」
そこから軽い雑談をしながら小一時間ほど話に花を咲かせた。
この国、とても治安いいかも!
「本当にありがとね?」
「いえ! 今度はちゃんとお金持ってお客さんできますね?」
「いつでも待ってるよ!」
そんなこんなで名前もわからないカフェの店員さんと別れ、再び町を歩き出す。
「ちょっと、楽しい!」
純粋に楽しかった後の続きというのもあるが、一人で町歩きが楽しい。
そんな風に気持ちが浮かれていると、遠くからガラガラと音を立てて走る馬車を発見。
それからもう一つ。
「あれは?」
走行する馬車を気にも止めずに三人の子供が元気に走っている姿を目撃。
(そういえば昔、ナツとルカの友達が貴族の馬車に轢かれて死んじゃったって話聞いたっけ……)
そんなことを思い出し、なんとなく子供達を目で追う。
馬車は子供に気付いていない……のか?
子供は遊ぶのに夢中で馬車の車輪の音に気付かない。
辺りの人は、馬車が来る事実に気を取られて横断を止める。
「もうっ!」
なんでこれに気付いてるの僕だけなの!
急いで走り出し、馬車が走ってくる中容赦なく横断して子供たちに駆け寄る。
「馬車が来るから止まって!」
「え、おねえちゃん誰?」
「後で教えてあげるから!」
急いで子供三人を馬車の走行路から離し、通過するのを待つ。
「……え?」
ようやく通り過ぎたと思ったら馬車が停車し、中から細身の、豪華に着飾った中年男性が降りてきた。
(なんでこっちに?)
何故か僕と子供たち三人のところまで歩いてきた。
そしてーー
「お前! 私が誰だか知っていて道を塞いだのか!?」
唾を撒き散らしながら、何故か怒鳴り声を荒げてきた。




