34話 婚約者候補になった三人
「なっ……シャイナ様は変だと思わないの!?」
「なにがかしら?」
「なんで伯爵なんかがここにいるの!」
ルージーは思わずチェアを叩いて立ち上がり、顔を赤くして怒鳴る。
(この人多分……)
ルージーは多分、レオン王子に本気で恋している。だからこそ、僕が気に食わないんだろう。
下の身分で、そこまでレオン王子に興味がないのに、レオン王子が唯一屋敷に足を運んだ相手。
どれほど屈辱か、どれほど悔しいか、どれほど苦しいか、僕には到底理解出来ないほど、恋をしている。
『お情けの婚約者候補』『ひっつきむし』そんな言葉が甘く感じるほど……。
「ならわたくし『なぜ侯爵がここにいるの?』って言いたいわ?」
「それはっ……私も婚約者候補で…………」
「ふふっ!」
「おぉ……」
この子本当に歳近いの? エッグいカウンターパンチだったけど、五〜七歳の皮を被った大人だったりする?
「ねぇスーちゃん」
「なあに?」
「スーちゃんって、どうしてヒカリちゃんを隣に座らせたんだっけ?」
「決まってるじゃない!」
シャイナ様は全員が一度聞いたはずの言葉をもう一度引き出させようとする。
そう、スティア様が僕を隣に座らせた理由。
「れいぎ正しくて可愛いからよ?」
「わたくしも同じですわ!」
招いてくれてありがとう。たったその一言が、スティア様の心を掴んで、そんなスティア様のお気に入りが泣いていたから、シャイナ様は僕を助けた。
ただの偶然の連鎖。真似事の礼儀の延長が、公爵令嬢二人が味方になってくれた。
「でも、もう疲れたから今日のお茶会は終わるわ?」
スティア様の傲慢な一言が場を凍らせる。
たった今始めたばかりのお茶会が終わる。公爵令嬢を不機嫌にさせただけで、終わってしまう。
「ま、待ってーー」
「今度は三人でお話ししましょ?」
「わたくしも良いと思います!」
「私も……良いの?」
「勿論よ! 他に一人誘ってもつまらないわ!」
誰かが言葉を発する前に三人で決着が付き、侯爵じゃ取り入る隙すらなかった。
(これが、公爵……)
ただ罵倒や権威を振りかざすだけじゃない。
七歳にも満たない少女二人は、人や発言を見て聞いて、権威を振りかざすことなく、公爵の格の違いをわからせた。
傲慢なだけじゃなくて、我儘なだけじゃない。
未だ止まらない涙すら忘れ、二人の高嶺の花に魅入ってしまう。
そんな中、一際響く声がお茶会に現れた。
「これは、なんの集まりですか?」
ゆったり歩いてきた人は、不思議がるでもなんでもなく、元々招待されていたように、平然と入ってきた。
「レ、レオン様!?」
慌てて立ち上がり、ドレスを摘んで礼をする侯爵令嬢の誰か。
それを皮切りに何人かも立ちあがろうとするが、レオン王子は無言で礼を止めさせ、侯爵の令嬢たちを誰一人見ることなく三人の下へ歩いてきた。
「どうしてここに……!」
「たまたま通りかかったら、知ってる人が集まってたから気になってしまって!」
誰かの問いは、振り返りもせず三人にだけ返された。
「僕の大切な婚約者候補が泣いているけど、説明できる?」
「っ!?」
僕は思わず一歩後退りをする。
相手は七歳。元高校生の僕から見たら所詮はショタ。
でも『私』から見たら、私より少し背の高い、歳上の男の子。
そんな人が本気で睨んだら、怖いに決まってる。
「えぇ! 少し元気な子が多かった見たいね?」
それなのに、僕と同じ年のスティア様は特に臆せず、ケロリと言い放った。
正直ここでスティア様やシャイナ様を疑うレオン王子ではないだろう。
でも、僕は本能的に首を縦に振ってスティア様の腕を掴んでいた。
「そうですか」
一言呟き三人に背を向ける。
「父上には、もう婚約者候補を二、三人に絞って良いと言われております」
全員に聞こえるように大声を出し、侯爵令嬢たちを見回す。
「僕は、レオン・オリスティナは『スティア・オーラライト公爵』『シャイナ・ミクロライト公爵』そして『ヒカリ・ウィンガート伯爵』この三人を婚約者候補にするよ!」
清々しい笑みでそう言い放った。
「え、そんなっ!?」
「なんで、その『ひっつきむし』も!」
「信じられない!」
侯爵令嬢たちは納得いかない様子でざわめき始める。
「三人には、父上から『おうひきょういく』のお手紙を贈ってもらえるように伝えておくよ」
「わかったわ!」
「スーちゃん?」
「はっ! しょうちいたしましたわ!」
「わたくしも、しょうちいたしました!」
公爵二人は綺麗な礼を一つ。
「ヒカリちゃんは?」
「私……は……」
自体についていけない。泣き疲れたしメンタル疲労も結構ある。
元男だから男性と結婚とか考えるのも変に感じる。
というかなにも考えたくない。
「しょうち、いたしました!」
「ありがとうヒカリちゃん!」
でも、今日凄く助けられたから、しっかり返事するくらいしないと、レオン王子に失礼だ。
「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」
「おまちください!!」
やる事だけ済ませて帰ろうとした時、一人の侯爵令嬢、ルージーが声をあげて引き留めた。




