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33話 シャイナ・ミクロライト公爵令嬢


「じゃあシャイナは私の隣ね? お気に入りが隣にいると私も頑張れるわ!」

「スーちゃん、ものみたいに言っちゃダメってお母様いってたよ?」

「そうだったわね、ごめんなさい。好きな人が隣にいると私も頑張れるわ!」

「そうね?」


 シャイナはスティアのもう一方の空席のチェアに座る。


 そして同時に今の一言が僕の立場を若干悪くした。


「あなたはなんでスティア様の隣なの?」


 一人の名も忘れた令嬢が僕に向かってそう言った。


 気に食わない。そんな視線と言葉が飛んでくる。



 幼いって無邪気だからさ、ヒカリちゃんもそんなこと言われると傷つくんだよ?


「私が座らせたのよ?」

「へ……」


 そんな中でスティア様が堂々と宣言した。


「れいぎ正しくて可愛いから、私が座って良いって言ったのよ? 文句あるかしら?」

「い、いえ、ありませんわ」

「スティア様……!」


 他にモヤついていた侯爵も、スティア様の言葉で全員黙らせた。


 やばい、スティア様好きになりそう。というかもう好き!


「わたくしも、あなたのこと気になっておりましたの!」

「え?」

「レオン王子自らお屋敷にいくのって、あなただけだもの! お二人で何をされたのですか?」


 スティア様を跨いで、シャイナは完全に好奇心だけで質問してきた。


「な、何も」

「何も?」

「はい」


 そう、何もしていない。お茶会なんてしてないし、特別話が弾んだ相手でもない。


「下町にいってあそんだだけで……」

「まぁ!」


 シャイナは目をキラリとさせて驚いた。


 一方ーー


「ふ、二人で下町に!? レオン様にそんな危険なことを!」

「お母様が言ってました、こういうのを『ひじょうしき』っていうんですのよ!」

「おなさけ婚約者候補は違いますわ……」


 侯爵令嬢の人たちにとっては、罵倒合戦開始の合図に他ならなかった。


 そういえば、陛下も何度も誘拐未遂に遭ったって言ってたっけ。


 そう考えれば、確かに危険なことだった。


(これは反省だな?)


「やっぱり、お情けはやること違いますわね?」


 隣に座っていたセイナも堂々と噛み付いてきた。


 さっきスティア様が僕をお気に入りって宣言したばかりなのにすげーな。



「セイナね、伯爵はずっとおなさけって習いましたわよ?」

「そうでしたわね?」


 セイナの隣のルージーも同様、僕を強めに弄ってきた。


「伯爵はずっとおなさけ?」

「知らないんですの? 伯爵はお勉強もされてないの?」

「……」


(四歳からしてますがぁ? 君たちより一年早く初めてますがぁぁぁ??)


 なんて言えるわけもなく、僕はダンマリを決め込んだ。


「『こうしゃく』の名前でもないのに婚約者候補の伯爵は『ひっつきむし』ってお母様が言ってましたわ?」

「……」


 セッカ侯爵さん、それは勉強じゃなくて『悪口』って言うんだよ?


「それ私のお母様も言ってましたわ!」


 僕の対極にいた名を忘れた令嬢も声を上げる。


「私のお母様は『カビ』って言ってましたわ?」


 気付けばこのお茶会は、レオン第三王子の婚約者候補の顔合わせから、侯爵令嬢たちによる、一番身分の低い伯爵令嬢の罵り合い合戦に変わっていた。



「……かえりたい」


 心の底からそう呟いた。


 元高校生の僕は良いにしろ、この罵倒合戦は精神が六歳のヒカリちゃんは耐えられない。


 マウントの取り合いとかならまだしも、純粋な悪意はきつい。


 意図せぬままポロポロと涙がこぼれはじめる。


 そんな状況下で手を叩く音が一つ聞こえた。


 誰がやったのかわからないけど、侯爵全員の視線がその子に向けられる。


「わたくしも、お母様から教わったことがありますの!」


 ふわふわした声は罵倒合戦に似つかわしくないほど明るくて、聞き心地が良い。


「お母様から教えてもらったときは、わたくしよくわからなかったのだけど、みなさまのおかげで、よくわかりました!」


 こんな優しい声で罵倒されたら、完全に心が折れる。


 やめて欲しかった。でも『私』は伯爵令嬢だから、一番身分が低いから……。


「シャイナのお母様ってなんて言ったの?」


 若干警戒心を帯びたスティア様の声が引き金だった。



 そしてーー


「『よわい犬よくほえる』あなたたちにピッタリですわ!」


 シャイナ公爵令嬢は、優しい笑みでそう言い放った。

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