30話 公爵令嬢のお誘い
「では、よろしくお願いいたします!」
「よろしくお願いします!」
あれから数日。
ミューゼが音楽教師を見繕い、六歳になったばかりだが、ヒカリちゃんの音楽教育が始まった。
まずは簡単に音の説明、とっても簡単な練習曲、何より楽しく学ぼうをスタンスにやってくれるから全然苦じゃない。
こうして初めてピアノに触ること一時間。
「アリア様が仰っていた通り、学ぶ意欲が凄いですね」
「え、アリアちゃん知ってるの?」
「えぇ、アリア・セルライト公爵令嬢。彼女の音楽教育も私が担当しておりまして、度々ヒカリ様のお話をされていました」
「アリアちゃん!」
(ミューゼさん、最高の人選です!)
流石お父様の専属だ、腕が立ちます!
「何度も貴族のお方の教育をしてきましたが、お二人ほど素直なお方はおりません」
「そうなの?」
「えぇ、少々癖の強い方が多いので、お二人は吸収も早くて教え甲斐があります」
「えへへ!」
言葉を濁しているが、要は上から目線で偉そうってことだろう。
やっぱりアリアちゃんは優しいんだ!
「先生、続きやりましょ?」
俄然やる気が出てきた。早くアリアちゃんと弾けるようになりたい。
「そうしたいのは山々ですが、今日はここまでです」
「なんで!?」
「ヒカリ様、手首に違和感はありませんか?」
「手首?」
僕は手首を回したり、手をグーパーさせてみる。
少し痺れたような痛みが走り、少し顔を顰める。
「これくらい大丈夫!」
「いいえ、実は大丈夫じゃないんです。アリア様も一日一時間と決めておりますし、私自身も、ピアノは長くて二時間までと決めています」
「ぶーっ!」
理由はよくわからないが、やり過ぎは良くないらしい。
これじゃあ一緒に弾ける日はいつになるのやら。
「焦らなくても大丈夫ですよ。ヒカリ様は意欲があるので、どれだけでも上手になれます」
「本当!?」
「はい。半年後が楽しみなほどに」
「えへへ! ありがとうございます!」
まぁ地道にやるしかない。
そもそも七歳から始める音楽教育を六歳から始めているんだ。
あまり贅沢は言えない。
そんなわけで、第一回ピアノ教室は幕を閉じた。
次は来週だ!
*
それから数日。
「ヒカリ、ちょっといい?」
「お母様?」
コウを抱き抱えるお母様に廊下で呼び止められ、ピシリと背筋を正す。
「実はお茶会の誘いが来ているのだけど……」
「おちゃかい?」
「えぇ。シャル」
「かしこまりました。ヒカリ様、こちらです」
「ん?」
シャルから一通の手紙を受け取り、開いて読み上げる。
『ヒカリ・ウィンガート伯爵令嬢
初めまして。私『スティア・オーラライト』と申します。
まずは、レオン第三王子の婚約者候補に残り、お褒めの言葉を(以下略』
「…………」
(くっそ上から目線の手紙が来やがった!?)
いや公爵令嬢だから立場が上なのは間違いなんだけど、なんだろう、この高圧的な手紙は。
しかもお茶会の内容がレオン第三王子の婚約者候補を集めたお茶会だし。
喧嘩でもおっぱじめる気か?
「行きたくない……」
「そうね、でもヒカリーー」
「大丈夫、行く」
ガチで心の底から行きたくない。
けど、行かないといけないことくらいわかる。
「お母様、これいつ?」
「手紙に書いてないかしら?」
「あ……」
続きを読んでいなかったせいで見落としていたが……。
「明日!?」
おいクソ公爵! もっとアリアちゃんを見習ってくれませんかね!?
「随分と急ね?」
「婚約者候補十名全員招待しているらしいので、自分がレオン様の隣に相応しいとアピールしたいのでしょう。自己顕示欲が透けて見えますね」
「こらシャル!」
「失礼いたしました」
「シャル怖い……」
言いたいことはわかるけど、ちょっと物大路しなさ過ぎ。
「明日は私が仕事変わりますので、フィリア様はヒカリ様を」
「えぇ、ありがとうシャル!」
「ありがとうシャル!」
「これくらい、どうということありませんよ」
シャルは僕の頭を撫で、綺麗な笑みを浮かべた。
そんなわけでヒカリちゃん、突然ですが明日、戦いに行きます!




