223話 吐き出す気持ちとしまう気持ち
「…………」
ヒカリさんとレオン様が去った後、俺「フィル」はぼーっと立っていることしか出来なかった。
理由は単純。
明確に、完全に、疑う余地なく、ヒカリさんに恋をしてしまった。
俺はセイナじゃない。そんなのわかっているし、前世の記憶がある分、尚のこと誰よりも理解している。
でも、やっぱり他人からはっきり言われることがある。
「セイナの兄なんだから、あいつどうにかしろよ!」と。
いつしか、周りから見たセイナの評価が、そのまま俺の評価に変わっていった。
周囲の視線は怖い。テレビや動画がない世界だと尚のこと。
それなのに、ヒカリさんは、あんなに輝いた笑みで、僕を「フィルさん」と呼んでくれる。
「どうすれば……」
あんなの、惚れるなって方が無理だ。
笑顔が可愛くて、褒めると無邪気に笑って、わざわざ地下に籠る俺に会いにきてくれて、前世という共通点があって。
何もかもが輝いて見える。
「あら、フィルさん?」
「ん?」
不意に俺を呼ぶ声が聞こえたので、視界の焦点を合わせると、ヒカリさんの親友の「アリア・セルライト」が立っていた。
「どうしました?」
「アリアさん……」
果たしてこの気持ちはどうするべきか。目の前の彼女に吐き出せば気持ちが楽になるだろうか。
「俺…………」
「はい」
「………………ヒカリさんが、好きだ」
「あら、そうなのね?」
「うん」
少し目を見開いたが、意外でもなんでもなさそうに簡単な返事だけをした。
「ヒカリちゃんはね、可愛くて優しくて、身分や立場なんて気にしない子だから、貴方はいつか好きになるだろうなって思ってた」
「ははっ……お見通しだったのか」
「えぇ! だって、貴方は妹と色々あるしね?」
「……」
やはり『公平主義』寄りの公爵は、あまりセイナのことは良く思っていないらしい。
「俺は……どうすればいいんだろう」
「ふふっ!」
「アリアさん?」
それなりに真剣に悩んでいるつもりだったけど、アリアさんには何かおかしく感じたらしい。
「ごめんなさい? 弟もヒカリちゃんのこと好きでね、フィルさんと同じこと言ってたから、つい照らし合わせちゃって!」
「なるほど……」
それは確かに笑みもこぼれ落ちる。
「しかし、ヒカリさんはカルラ君にも好かれてるのか。レオン様もゾッコンだし、どうなってんだ?」
「凄いわよね? 流石私の親友!」
「なんでアリアさんが誇らしげ?」
少しだけ気持ちが軽くなり、ようやく歩き出す元気が戻ってきた。
「それで、どうするつもり?」
「何が?」
「ヒカリちゃんに好きって伝えるの?」
「…………」
正直それが一番どうすればいいのかわからない。
アリアさんがいる限り、気持ちを吐き出すことは出来る。
しかし、想いを伝えずに全てが終わると、凄く後悔しそう。
というか、前世で家族に碌にお別れ言えなくて、それこそ後悔なんて言葉じゃ測れないほど後悔した。
「いつか言う……けど、今じゃない、気がする……」
「随分と曖昧ね? カルラはレオン様の婚約者候補から外れたら僕を選んでって啖呵を切ったわよ?」
「ははは……そりゃ凄いね……」
俺は一途に想いを伝えられるほど純情じゃない。
それこそ「嫌われたらどうしよう」とか「今の関係が崩れたら」と考えてしまう。
ヒカリさんはそんなことしないとわかっていても、それでも、それはただの推測に過ぎない。
「まぁ、カルラのことを考えると、フィルさんを応援は出来ないけど、話くらいは聞くわ?」
「うん、それだけで十分助かるよ」
「そ?」
ようやく二人揃って正門を出て、そこから先はいつのまにか迫っているテストについて話しながら帰路を歩き出す。
そろそろアリアさんを抜かして、学年一位に立ちたいものだ。
そうすれば、ほんの少しでも、ヒカリさんが意識してくれるかもーー




