222話 フィル・スカラ侯爵子息
「えっと…………二人とも、どうしたの?」
僕は二人の様子を口を開いて見ることしか出来ない。
なんか、嫌悪な仲なのだろうか。
「いや、ヒカリの会いたがっていた人が意外な人だったから驚いただけさ」
「レオン……」
その割には眉間に皺が寄っている。ただ怒っている様子はない。
嫌な人と会った、それ以上でもそれ以下でもないような……。
そしてタロウさんも同様。
「…………なんか、空気が重い!」
「え?」
「ヒカリ?」
普段の僕なら同じように沈黙していた。けど、ちょっと人気者になってつけ上がっていたのか、自分でもビックリするほど、本音がポロリと溢れた。
「レオンってタロウさんのこと嫌いなの?」
「フィ……タロウさん自体は嫌いではないよ? ただーー」
「ただ?」
そこから先はいうのを躊躇っているのか、少し口をパクパクさせている。
「レオン様」
「フィル……」
「え、フィル?」
フィルとは?
「ここから先は俺が話すよ。隠してはいたけど、いつかバレることだっただろうし」
「…………そうか」
まるでレオンのターンが終わったと言わんばかりに一歩下がり、僕はタロウさんに目を向ける。
「まぁヒカリさんは知ってると思うけど「タロウ」って偽名なんだよ」
「まぁ、ですよね?」
そもそもこの世界に「タロウ」なんて名前は似つかわしくない。
「俺の名前は「フィル・スカラ」だ」
「…………え? スカラって」
僕は思わず目を見開いて、脳が止まるのをしっかりと感じ取る。
「スカラ侯爵の子息で、ヒカリさんを監禁した「セイナ・スカラ」の兄だ」
*
「セイナさんの……お兄さん……」
「………………あぁ」
本当に肯定するのが嫌なのか、凄い間を置いてから返事をした。
ただ、なぜタロウさん……じゃなくて、フィルさんが僕にそれを言うのを躊躇ったのかよくわかる。
正直、嫌悪感が溢れ出てきている。
セイナの名前を聞いただけなのに、目の前のフィルさんは全く関係ないのに、何か裏があるのではと疑ってしまうほど。
それだけ「セイナ・スカラ」の存在が、僕の中で強烈なのだ。
「ヒカリ、念のため言っておくけど、フィルさんとセイナはあまり良好な関係とは言えない仲なんだ。だからーー」
「うん、わかってる。わかってるから」
そもそも関係性が良好だったら渋る必要もない。
「…………」
まぁでも、フィルさんの方が嫌だよね。僕が今思ったように、何か裏があると勝手な想像されるし。
「ねぇフィルさん」
「ヒカリさん……」
僕は特に何かを気にする素振りを見せず、普通にフィルさんの前まで歩く。
「この髪型似合う?」
「え…………?」
自分の髪をいじり、じっとフィルさんを見つめる。
しかしフィルさんは何を言われたのか理解出来ないようで、口を開いて固まった。
「ちょっと! 女の子がオシャレしてきたんだからさ、何か言うべきじゃない!」
「ご、ごめん。すげぇ似合ってる。ビックリするほど可愛い」
「よろしい!」
取り敢えず褒め言葉を貰ったので、健気に笑って魅せる。
「満足したから帰ろ?」
「え……ちょっとヒカリさん!」
「ん?」
フィルさんに背を向けて帰ろうとすると、驚いたように呼び止めてきた。
「…………何も思わないの?」
「うーん…………少しは思うよ? でもーー」
なんて言おうか少し考え、自分の思っていることを整理して声に出す。
「血は繋がってても、フィルさんはセイナじゃないし」
「…………」
徐にフィルさんに近づき、少し俯いていた顔を覗き込み、両手でフィルさんの頬に手を添え、再び笑顔を魅せる。
「だから……………………また明日ね!」
結局上手く言葉を紡げなかったが、フィルさんが真っ赤っかになっていたし、僕も変な恥ずかしさで爆発しそうだったので、挨拶だけしてレオンと一緒にその場を去った。




