215話 ユース・ナノディア
「ふぁぁぁ……」
翌日。私はいつもより早めに目が覚めた。
昨日のうちに、お父様にお願いして王妃様宛へ一枚手紙を速達。
内容は『明日は私がレオンを迎えに行く! レオンには内緒にしておいて!』だ。
護衛対象が護衛を迎えに行くという珍事なのは目を瞑るとして、理由は単布で、偶には好きな人を迎えに行こうというだけ。
「ヒカリおはよう。早起きなのに随分と元気だね」
「お父様おはようございます! そりゃ勿論、ね! お母様たちは?」
「フィリアは今日は仕事休み。ミューゼとシャルはまだ来てない」
「じゃあ御者の準備は私がしないとか」
当然だがシャルもミューゼも家庭があるから住み込みで働いているわけじゃない。
いつも屋敷のいるから勘違いしそうだけど、二人とも既婚者なのだ。
「結婚か……」
あと三年後には僕も実質結婚する。可能性がある。
マジで実感ないな。
「まっ、考えてもしょうがないか!」
そもそも王妃どころか、婚約者に選ばれるかどうかもわからないのに、そんなことウダウダ考えてもしょうがない。
「私御者の準備してーー」
「もう準備なら出来てるよ? いつでも出発できる状態だ」
「…………へ?」
「だからしっかり朝食を取って、メイクでもしてきなさい」
「お、お父様……!」
なんとまぁ仕事のできる父親だこと。
「でも私自分でメイクなんてーー」
「おはようございます旦那様」
「あ、シャルおはよう!」
そもそも前世は男だし、今世でもお母様にやって貰った数回しか無いのに、簡単に出来るわけない。
そんなことを言おうとしたら、ノック音と共にシャルが食堂に入室。
「ヒカリ様おはようございます。今日は随分と早起きですね?」
「うん、ちょっとレオンを迎えに行こうかと!」
「…………護衛対象のヒカリ様が、護衛を迎えに?」
「そこは目を瞑って……」
生真面目なシャルには引っかかる部分もありそうだが、恋は盲目っていうし、ヒカリちゃん絶賛盲目中ってことで収めてほしい。
「なら私は御者の準備をーー」
「それならもう済ませてあるから、シャルは後でヒカリのメイクのお手伝いをお願い」
「承知いたしました」
それだけ言い残してせっせと退室していった。
「シャル、仕事人だ」
「シャルの生き甲斐だからね。もう少し家庭に身を置いてもいいと思うけど」
「あはは……」
いくらシャルでも、人様の事情に口出しは避けた方がいいよな。
そこからお父様と少し雑談し、メイドが運んでくれた朝食を食べ終え、せっせと自室へ戻った。
「とりあえず準備はいいとして……あとはシャル待ちか」
だいぶ馴染んだ学生服を着て鏡を見つめる。
「果たしてこの可愛いヒカリちゃんがメイクでどこまで化けるのか」
自分の顔を自画自賛し、メイク道具と少し睨めっこしていると、ノック音が一つ聞こえる。
「ヒカリ様、失礼したします」
「シャル……じゃない!? ユース!? なんでこんな時間から!?」
コウの家庭教師のユースが、お母様すら起きていない時間帯にいるなんて。
「先ほどシャルさんと話した時、ヒカリ様がメイクをするのを聞きまして」
「うん、多分今日だけだけど」
メイクはあまり肌に良くないっていられてるし、十二歳のうちからバンバン使用して良いものではなさそう。
「それで、ユースはなんでこんな時間から?」
「それはメイクしながら話しますね。ヒカリ様、こちらに座ってください」
「はーい」
ユースが鏡の前の椅子を引き、僕もそれに座り、無策に名前すら知らないメイク道具を取り出す。
「今日は以前お話しした『家庭教師を必要としている子供たち』を集める場所の候補を絞ろうかと」
「なるほど、あの話から一年以上経つものね。そろそろ本格的に動き出してもいい頃よね」
気付けばコウも十歳。勉強の進み具合は把握してないけど、そろそろ家庭教師で教えられる範囲が終わってもおかしくない。
「はい。ウィンガート家を離れる日も近いので、娘と歳の近いヒカリ様に、少しお節介をしてしまいたくなりまして」
「あはは、私で良ければなんでもしていいわよ?」
気付けばユースとも七年の付き合い。前世の小学校以上の年数が経っている。
感慨深いな。
「ありがとうございます。出来ました」
「早っ!?」
もうメイク終わったの!? まだ始めて一分程しか経ってないよ!?




