212話 きょうだいの差
「え、全然?」
僕は特に意に介さず、つまらないほど端的に答えた。
「ははっ、流石だね?『公平主義』の人間は幻滅すらしない綺麗な人なのかな?」
皮肉が籠った言葉を投げかけてくるが、全然違う理由だ。
「そんなことないわよ? そもそも幻滅なんてし切ってるのに、これ以上リョウさんをどう幻滅すればいいの?」
「…………は?」
「え?」
僕の回答は予想外だったようで、キョウツさんどころか、隣でずっとニヤニヤしてたミカも呆気に取られた様子をしている。
「元々無い好感度なんだし、今更何聞いてもね?」
「「…………」」
僕から出た思わぬ毒に固まるしか無い二人。
そしてリョウさんの背中から哀愁が凄い漂っている。
まぁそれだけのことしたんだから受け入れてよね。僕も清廉潔白な人間じゃないんだから。
「もう行ってもいい?」
「え……あ、うん……」
「リョウさん行こ?」
「…………あ、うん……」
キョウツさんとリョウさんからぎこちない返事を貰い、気まずい空気をものともせず、二人の背にして階段を登っていく。
お互い口を開くことなく、規則正しい足音だけが響く中、リョウさんがようやく一言発した。
「ヒカリちゃん、ありがとう」
「何が?」
「ヒカリちゃんからしたら、ただ本当に幻滅しようがないだけだったかもしれないけど、俺からしたら、結構救われた……」
背中越しだから表情はわからない。ただの強がりなのか、本気でホッとしたのか。
ただ、さっきまで強張ってた背中が、力が抜けて緩く丸まっている。
「まぁ私からしたら事実述べただけだし、それで勝手に救われたなら、それはどうもって感じだけど」
「だけど?」
少し頭の中で言葉を整理し、ゆっくり声に出す。
「あとは……えっと、上がるだけだからさ、ね?」
「上がる? どういうこと?」
「わかんないならいい!」
なんか言ってて小っ恥ずかしくなってしまい、言ってる意味が伝わらないまま部活動の教室についてしまった。
「はぁ……今日空回りしてばかりだ……」
本当に、ずっと何してんだろうな僕は。
*
「こんにちは!」
「あ、ヒカリちゃん来た!」
「お、ようやく来たな?」
「あれ、アヤメさんがいる!」
『新・音楽部』が使っている教室を開くと、副部長のフウさんの他に『新・ダンス部』の部長のアヤメさんがいた。
「もしかして、学園祭の出し物の話ですか?」
「お、ヒカリちゃん冴えてるね!」
まぁわざわざアヤメさんがここに来る理由なんてそれくらいしか見当たらない。
「ねぇヒカリちゃんーー」
「やりません!!」
「何も言ってないでしょ!」
何も聞かれてないけど即答で拒否した。
「だって『あのダンス踊って!』じゃないですか」
適当な椅子をガラリと引いて座り、ぷくりと頬を膨らます。
「ヒカリちゃんがやってくれるなら絶対に好評だと思うの! 可愛いし、ふわふわしてるし、何より王族と公爵の寵愛が凄いから予算が沢山下りる!」
「絶対最後のが理由じゃん!」
「最後のはおまけだよ! 一番の理由は『私が健気に頑張りヒカリちゃんを見たい』だよ」
「えぇ……」
ちょっと、ドン引きなんですけど!
「フウさん、副部長でしょ? 新入部員が嫌がってるからなんとか言ってください!」
「…………すまん、婚約者の頼みだ。俺はアヤメにつく」
「人でなし!!?」
どうにかフウさんに助けを求めてみるが、五秒も保たずに撃沈。
いやマジで婚約者だったんだって事実がどうでもいいほど味方がいない。
「お願いヒカリちゃん! 中々世間に根付かない『新・音楽』と『新・ダンス』の希望の星はヒカリちゃんだけなの!」
「ぐぬぬ……」
両手を合わせて全力で頭を下げている。これ、受けない限り学園祭まで延々とやる流れだよねきっと……。
「はぁ…………わかりました。やります」
「本当に! やっぱり嘘はなしだよ!」
「そんなこと言いません! その代わり一人は嫌ですからね?」
「勿論だよ! よし、あとは学園祭に出る人を選別しないと!」
「落ち着いてアヤメ」
一気にやる気が出たのか、フウさんの手を取って元気に跳ねている。
「…………」
すげぇな……あのミカさんとこのフウさんがきょうだいか。
見た目似てるのに中身に差がありすぎる……。




