211話 貴族至上主義の『公平主義』
「それで、何か私に用でもあるの?」
「え?」
「…………は?」
こいつ、何も用事ないのに一緒に行こうとか言い出したの?
「いやだって、向かう先同じ教室だし」
「…………それもそうか」
同じクラスで同じ部活動なのに、今日の今日まで心の距離が遠過ぎたせいで、一度たりともご一緒してなかった。
「「…………」」
まぁ一緒に行くからと言って話が弾む訳でもないんだけどね!
ヒカリちゃんのコミュ力を持ってしても、中々気まずい時間だ。
「あのさ」
「何?」
「学園祭のことなんだけど」
「ん?」
そんなことを思っていたら、向こうから話しかけてきた。
「あのよくわからない歌とダンスってやらないの?」
「よくわからない…………うん、私はもう恥ずかしい思いしたからやらない」
もうあれは黒歴史として闇に葬り去った。二度と蒸し返さない。
「なんで?」
「恥ずかしいって言ったばっかだよね!?」
人の話聞いとったんかこいつ? デフォで頭イカれてるんか?
「正直やらないのすごく勿体ないよ。一年どころか先輩たちからも好評だったし」
「好評だったのは認めるけど、私のメンタルの方が大事。それにーーきゃっ!」
「ヒカリちゃん!?」
階段を登っている時不意に誰かとぶつかり、階段から落ちる前にリョウさんが手をとり、なんとか転落せずに済んだ。
「ご、ごめんなさい、急いでてーーって、ヒカリ・ウィンガート!?」
「私も前見てなくて…………え?」
ゆっくりぶつかった人を見上げると、そこには以前僕に売り子を押し付けた『ミカ・オウレン』侯爵がいた。
「おいミカ、お前わざとじゃーー」
「ち、違うわよ! そんなことをしたら退学になっちゃうし!」
「本当か……?」
「本当よ!」
リョウさんが僕の前に立ってミカを睨みつける。
「リョウさん落ち着いて。別に階段から落ちたわけじゃないし、ミカさんも咄嗟に謝ってたから、本当にわざとじゃないと思う」
「ほ……ほら! ヒカリ・ウィンガートもこう言ってるし!」
「…………」
若干腑に落ちない様子だが、一つため息をついてようやく険悪な空気が薄れていく。
「おいミカ、そんなところで何してーーってうわぁ、リョウ・ミドロじゃん、嫌なやつとあった」
「キョウツ……」
階段上から降りてきた一人の男性がリョウさんを見て、露骨に嫌な顔をする。
「それから……ヒカリ・ウィンガートか」
そして相手は僕のことも知っていそうだ。
まぁ僕も売り子をやらされた時にミカと一緒にいた人ってことはすぐわかった。
「おいおいリョウさんよ! いつまで『公平主義』ごっこしてんだ?」
「『公平主義』ごっこ?」
「キョウツお前……!」
「あれ、ヒカリ・ウィンガートは知らないのか? まぁロクにお茶会開かなかったらしい引きこもりだし当然か」
僕とリョウさんに挑発して、そのまま続ける。
「リョウって、根っからの『貴族至上主義』なんだぜ?」
「やめろキョウツ!」
「なのに『公平主義じゃないとルージーと婚約破棄出来ない!』って、無理して『公平主義』気取って、結局それで『貴族至上主義』からも『公平主義』からも嫌われて、哀れだよな?」
「…………」
見下す視線をリョウさんに送りながらも、チラチラと僕の様子を伺っている。
どんな反応を引き出したいのか知らないが、そもそも自分の考えを変えるって簡単に出来ることじゃないし、考え方が真逆ならなおのこと難しい。
「それで今回は『公平主義』穏健派のヒカリ・ウィンガートに縋ってるわけか? 王族の婚約者候補の女の子なら、事を荒立てるさせるわけにもいかないし、利用しやすいよな?」
「そんなんじゃない!」
「どうせ格を保てる相手がヒカリ・ウィンガートくらいしか見つからなかったんだろ?」
「黙れ!」
頭に血が上っているのか、言い返す言葉がちっぽけになっている。
後ろ姿だけでも、顔を顰めているのが容易に想像できるほど。
「どう、ヒカリ・ウィンガート。幻滅しただろ?」
「…………」
ここで僕に振らないで欲しいけど、とりあえず素直な気持ちを吐くのが賢明だろう。
だってーー
「え、全然?」
一ミリたりとも幻滅なんてしていないのだから。




