209話 本当のやり残し
「なんでこんな事してるんだろう……」
「なら置いていけば?」
「こんな足痛そうにしてる人置いていくほど人でなしじゃないよ?」
わざわざここまで戻って来ておいて置いていくなんて、いくらなんでもメンタルが不安定過ぎる。
「それは…………まるで『いつも一緒にいるのに置いてった人たちは人でなし』ってこと?」
「…………そうね、とっても人でなしだと思う。スーちゃんやシャイナちゃん、サンやスイカはそんなことしないもん」
「どうだろうね……」
「少なくとも私は、四人の誰かがリョウさんみたいに動くのが大変そうだったら、講義が遅れても一緒にいる」
「…………」
一歩一歩しっかり段差をを確認し、必死に階段を降りる。
今その辺に苦虫がいたら速攻で踏み潰しそうなほど不愉快な気持ちだけど、どうにか堪えて必死に足を動かす。
「…………ねぇ」
「何? あんまり話しかけないで欲しいんだけど……」
「……俺の昔話してもいい?」
「勝手にして」
リョウさんは僕が言った通り、勝手に語り出した。
「俺も婚約者は、ルージー・セッカ侯爵って言う『貴族至上主義』の過激派なんだ」
「…………レオンから聞いたわ?」
「それで、婚約が決まって初めて対面した時、ルージーに言われたんだ。『私はレオン様と結婚するの! 打算でもこんな人嫌!』って」
「…………」
それは、あまりに酷すぎる。初対面でそれは失礼どころじゃない。ましてや婚約者相手に。
「そこからは、少なくとも、打算で良いから良好な関係を築こうと思ったんだ。親が決めた婚約だから、簡単に解消出来ないし」
「…………それでそんな性格になったのね?」
まぁ捻くれ始める原因には充分だ。そこから先なんて語られなくても察しがつく。
「ヒカリちゃんは優し過ぎる」
「私は優しい人に囲まれて育ったからね? スーちゃんやシャイナちゃん、アリアちゃん、そしてレオン。確かに恵まれてるかもね」
「…………」
「だから……昨日はごめん……」
「へ? なんで?」
「…………」
今の話を聞いて考えれば、昨日の衝突は正反対の価値観の差が生んだ衝突だと直ぐわかる。
「私の考えを押し付け過ぎた……ごめん……」
「ヒカリちゃん……」
ちゃんと謝罪して力が抜けたのか、身体がドッと重くなる感覚に襲われる。
「……俺もごめーー」
「あ、ヤバっ!?」
「え?」
足が、ピキってなった……。
「いたたたたた!? 足がぁぁぁ?!」
僕は両手で足を抑えて思い切り倒れる。
今度は僕が……足を攣ってしまった……。
*
「失礼します」
「いらっしゃい。こんな時間から保健室に用事なんて、サボりかしら?」
「違います……」
「あら『ヒカリ・ウィンガート』じゃない! こんな短期間で二回も来るなんて」
「来たくて来た訳じゃないです……」
結局僕はリョウさんにおんぶされて保健室へ。
本当に、何のためにリョウさんのもとまで行ったのやら……。
「それで今度はどうしたの?」
「えっと……足攣っちゃって」
リョウさんの背中から降り、まるで自由が効かない痛い足を見せる。
「あら、それくらい直ぐ治せば良いじゃない」
「先生はリョウさんにスカート履いた私の足を治させろと?」
「…………ごめん、失言だったわ?」
冗談抜きでお嫁に行けなくなってしまう。
「はい青年、可愛い女の子のはしたない姿は見せられないからちょっと外で待ってて!」
「あ、す、すみません」
そんなわけで慌てて外へ出て行き、現在保健の先生と二人きり。
「全く、監禁事件の後は足攣って来るなんて、貴女保健室好き過ぎじゃない?」
「来たくて来た訳じゃーーいたたた! 痛い痛い!」
「はいはいそうね! 早く治してあげるから教室に戻りなさい」
「ご……強引……」
足は凄く動くようになったけど、代償にとんでもなく痛い思いをした。
「お……お邪魔しました……」
まだぎこちない足を無理やり動かして、外で待つリョウさんと合流。
「なんでこんなことに……」
「ヒカリちゃん本当に何しに来たんだろうね?」
「言わないで……」
なんか、全て空回りに終わった気がする。
「ねぇ」
「何? 笑いたければ笑えば?」
「卑屈過ぎだろ」
若干引いたような様子を見せたが、直ぐに真剣な表情になり、一呼吸置いて一言。
「俺も、ごめん。言い過ぎた」
「…………」
「色々焦ってたんだ。兄貴がエイ様の婚約者候補から外れて、俺もルージーと婚約破棄しようと躍起になって……」
「そっか……」
悪いことって不思議と続くもんな……。
「……良いよ?」
「え? 許してくれるの?」
「何? 許して欲しくないの?」
「いやそういう訳じゃ! でも、理由を聞いてもいい?」
「そんなのないわよ。リョウさんの考えてることがわかったから、自分なりに咀嚼しただけ」
「そっか…………ありがとう」
まだ完全にスッキリはしてないけど、取り敢えず落ち着くところに落ち着いた。
「んん〜! よし、教室戻らないとね?」
「……うん」
大きく伸びをして疲労を抜き取り、ゆるくなった顔から笑顔が溢れる。
「結局私必要なかったな〜」
ただ足攣って保健室に連れてこられただけ。マジ哀れだぜ。
「しかし、どうにか意識してもらおうとしてたけど」
「ん?」
「…………いや、なんでもない」
「そう? 早く戻るよ。リョウさんのせいで遅刻とか絶対に嫌だから」
「はいはい」
重たいのに少し軽い足取りで教室まで早足で向かう。
「今度は……嫌いにならないと、いけないな」
そんなリョウさんの呟きは、僕には全く届かなかった。




