207話 やり残し
翌日。
まぁ易々と解熱して護衛再開といくわけなく、今日もスーちゃんとシャイナちゃんと三人で登校して現在教室。
「おはよう」
「あ、ヒカリちゃんたち来た!」
「おはようございます!」
既にサンとスイカは教室におり、いつも通り簡単な挨拶を交わす。
しかし、今日は完全にいつもと違う教室の空気が漂っていた。
僕とスーちゃんとシャイナちゃんが教室に入った瞬間、まるでクラスが肩を震わすようにびくついた。
(い……居心地が……)
スーちゃんとリョウさんの派閥の人が口喧嘩したのが昨日の今日だし、しょうがないといえばしょうがないのだけど……。
「おはよう二人とも!」
「二人ともいつも早いわね?」
そんな中でもスーちゃんとシャイナちゃんはお構いなしで、いつも通り話している。
とんでもない肝っ玉だ。
「二人ともおはよう! 昨日は色々ごめんね?」
「構わないわ? 性格が合わない人なんて、いて当然だもの!」
「ヒカリちゃんが気にし過ぎる必要ないわ!」
「ありがとう!」
僕の謝罪は二人にスッと受け入れられ、荷物を置きに席につく。
「…………」
昨日とは打って変わり,隣のリョウさんは声をかけてこない。
個人的にはそっちの方が平和でいいし、昨日色々話してもう無視するって決めたのだけど……。
最後のやり残しだけは済ませないと。
「ねぇ」
「何?」
隣の席のリョウさんに話しかけ、一つ呼吸を置いて一言。
「昨日は言い過ぎた。ごめん」
「え?」
「それだけ。じゃ」
リョウさんは一体どんな表情をしているのか。そんなことすら確認せず、特に目を合わせることもなく再び五人で会話に花を咲かせる。
まだクラスの空気は良いとは言えない。
実際、僕がリョウさんに話しかけた時、クラスの何人かが一瞬びくついたのも感じ取れた。
ただ、僕とリョウさんは多分あまり交わらないし、このまま好転するのを願うしかない。
「ヒカリちゃん優しいわね?」
「え? 優しい?」
どちらかと言うと、突き放したから『酷い』の方が正しい気がするが、スイカには僕がどう映ったのだろうか。
「もう少し醜くなっても良いと思うけどね?」
「ちょっとスイカ! ヒカリちゃんは純情な赤ちゃんだから良いの! 変なこと吹き込まないで!」
「スーちゃんは私をなんだと思ってるの……」
*
あれから衝突することなく、現在社交ダンスの講義。
最上階の六階で、つま先立ちの体幹トレーニングや、手拍子でのダンスといった、まるでバレイの練習みたいなことをしている。
「痛いよぉ〜」
「無理ぃ」
「もう限界……」
そして既に僕とサンとスイカは音を上げている。
「情けないわね! 伯爵の名が廃るわよ?」
「三人とも頑張って!」
「逆になんでスーちゃんとシャイナちゃんはそんなに平気なの……?」
一方スーちゃんとシャイナちゃんはずっとケロリとしている。
一体なんで体力にこんな差がついたんだ?
それに、言ってしまえばスーちゃんとシャイナちゃん以外、男女問わず全員が疲弊している。
「二人は……疲れないの?」
「疲れるわよ?」
「ね? 疲れたよね?」
「え?」
思わず容体を聞いてみたが、ちゃんと疲れてはいるらしい。
「わざわざ表に出さないだけよ!」
「隙は見せたくないものね?」
「「おぉ……」」
これが公爵ですか。改めて二人はめちゃくちゃすごい。
「私も疲れてない!」
疲れた身体を奮い立たせ、再び基礎練習に励む。
「私もまだやれる!」
「余裕よ!」
サンとスイカも奮い立ち、疲弊したクラスの僕たちの一角だけ、やけにやる気に満ちた空気が溢れる。
周りの人からも「すげぇ」とか「優等生過ぎだろ」とかの声がちらほら聞こえる。
そんな尊敬や畏怖の視線を感じる中、空気を破る声が一つ。
「痛えぇぇぇ! 痛たた!」
「ちょっとリョウ大丈夫!」
ホールに『ドン』と音を響かせ、足を抑えて倒れるリョウは、苦しそうに顔を顰めている。
「あぁ、足攣った……」




