206話 王族では出来ないこと
「…………」
フラン・シロという名の嵐が過ぎ去り、再び教室で一人になってしまった。
「暇だな……」
どれだけ暇でも最早スマホが恋しいとすら思わなくなった。よく考えれば、最後の前世の記憶も、もう十二年前だもんな。
すっかりこっちに染まりきっている。
「ごめんヒカリちゃん! お待たせ!」
「シャイナちゃん!」
はるか昔の記憶に想いを馳せていると、シャイナちゃんが教室に到着。
「ありがとね、わざわざここまで来てくれて!」
「ううん、いいのよ全然! それより、教室とはいえ誰もいないのは危なかったわね?」
「うん、ユウ様も諸事情で早くに帰っちゃったから、私に護衛が必要なこと知ってる人いなくて」
「そっか……何もなかった?」
「うん、大丈夫! フラン・シロさんと初めましてしたけど、それだけ」
「うわぁ……」
「え?」
今、シャイナちゃん「うわぁ……」って言った?
心底嫌そうな声してたような……。
「何か嫌味とか言われてない? 大丈夫?」
「うーん……ユアン様とアリアちゃんがよく話す割には、オドオドしてて拍子抜けって言われたけど……」
「まぁ……あの方の前では言葉が詰まりますわよね……」
「シャイナちゃんも経験済みか……」
あれは最早圧力の類だ。自覚的か無自覚なのか、どちらにせよ中々に棘のある性格だ。
「あの性格でよくユアン様の婚約者候補残ってるね?」
「それは私も同感だわ?」
金で動く王族でもないだろうし、侯爵だから身分を使った圧力もかけられない。
弱みでも握られてる?
「さ、そんなことより帰りましょ?」
「うん、ありがとう!」
簡単な雑談を済ませて一緒に教室を出る。
*
「ねぇヒカリちゃん」
「どうしたの?」
「レオンがいなくて寂しかった?」
「へ?」
シャイナちゃんの馬車で家まで送り届けて頂いている最中、茶化すような様子もなく、真面目な顔でそんなことを言ってきた。
「そう……だね。寂しかった、かも……」
「そっか」
護衛の名目とはいえ、殆どずっと一緒にいた人が一日いないのは、やっぱり寂しい。
「あのね、スーちゃんとレオンにはもう話したんだけど」
「うん」
「私、レオンの婚約者候補から外れようと考えてるの」
「え……!」
シャイナちゃんは一つ深呼吸し、僕の目をしっかり見てそう言った。
「あ、勘違いしないでね? 別にレオンが嫌いなわけじゃないし、ヒカリちゃんに婚約者になってほしいからってわけでもないの!」
「う……うん! そうだね!」
そこに勘違いしたわけではないけど、ちゃんとした理由がないと納得出来ない。
「それで、理由を聞いてもいい?」
「うん。簡単に言うと、私のやりたいことって、王族になると出来ないのよね?」
「王族になると、出来ない?」
「うん」
確かに王族はあまり自由が利かないイメージだけど、王族じゃ出来ないことは寧ろ少ないような気がするが……。
「私さ『作る』のが好きなの」
「作るのが?」
「そう! スーちゃんのお母様がドレス作ってる姿を見たのが最初なのかな? それに、タルトを作った時も楽しかったし、今は平民の服を作るのも楽しい!」
「そっか。確かにそれは、王族じゃ出来ないね?」
「ふふっ!」
外交だったり、多くの貴族を統括したりする以上、ものづくりは王族の管轄ではない。
「そっか……それはしょうがないけど、なんか寂しくなっちゃうね」
「ヒカリちゃん何言ってるの? 寧ろライバルが減るからラッキーじゃない?」
「そんなことないよ! 皆んな恨みっこなしで頑張って来たのに……。王妃教育も……」
「ヒカリちゃんらしいね? 凄く優しくて思いやりがあって」
別れの話をしているわけでもないのに、なんだか凄く寂しくなってしまう。
「ヒカリちゃんは伯爵じゃ勿体無いほど純粋よね?」
「ただの世間知らずだよ……」
「そうかもしれないけど、それだけじゃないわ?」
「よくわからない」
スーちゃんほど芯もないし、シャイナちゃんほど明確な目標もない。
寧ろ一番王妃に向いていない。
「今はわからなくてもいいわ? それにーー」
「それに?」
「時間ギリギリまで婚約者候補には残ろうと思ってるから、あと二年は二人と一緒に頑張れるわよ!」
「シャイナちゃん……!」
その言葉でホッとしてしまうあたり、僕は本当にスーちゃんとシャイナちゃんがいないと頑張れない。
「なんでホッとしてるのよ!」
「だって……三人一緒がいいんだもん……」
「うん、私もよ! 聞いてくれてありがとね、ヒカリちゃん」
シャイナちゃんは愛おしそうに頭を撫で、重い話はそこで終わり、残りの時間は簡単な雑談しながら家まで送って貰った。




