205話 フラン・シロ侯爵令嬢
「はぁ……」
部活動もひと段落して、いつも通り帰宅しようとしたのだが……。
「帰れない」
いつもは護衛してくれてるレオンが休みで、帰りはシャイナちゃんに任せているので、今は教室から出ることすら出来ない。
「レオンって……いつも私に合わせてくれてたんだな……」
自由に学園内を動けたり、帰りたい時間に帰れたのに、今日はそれが出来ない。
既に皆んな帰ってしまい、現在教室に一人。
「どうしようかな…………って、一人?」
教室とはいえ、一人? 不味くない? 今セイナやルージーと遭遇したら…………。
そんなことを思っていると、ガラガラと扉が開き、思わずビクつく。
「んあ? なんだ、まだ人いたのか」
「えっと…………ハクトさん、でしたっけ」
「…………」
教室に入ってきたのは『ハクト・シロ』。
侯爵の人間で、確か妹がアリアちゃんと同じでユアン様の婚約者候補だった。
「「……」」
そして入部の顔合わせ以降会ったことも話したこともないからめちゃくちゃ気まずい。
「…………帰んないのか?」
「え?」
「お前、帰んないのか?」
「お前…………えっと、まだ友達が来てないので」
可愛い女の子に『お前』はないだろう……と思いつつも護衛のことは伏せて言葉を返す。
「…………」
「…………」
いや聞いておいて無視ですか!? いくらなんでも酷くない!?
「えっと……」
まさか、十二歳のヒカリちゃんのコミュ力を持ってしても打開出来ない沈黙があるとは……。
しかも雑に座った位置が僕と対極の椅子だし。なんか、気に障ることしたかな……。
「ハクトさんは……その……」
「…………」
「……いい天気、ですね」
「は?」
「いやっ、違くて!」
ははは、もう無理や……。
「お兄様! やっぱりここに!」
再び沈黙が訪れようとした時、見ず知らずの女性が豪快に扉を開けて入ってきた。
「おいフランうるさい」
「うるさくありません! 早く行かないとーーって、あら?」
「…………」
「あらあら」
勢いのまま話す前に、ハクトさん以外にも教室に人がいることに気づき、一瞬で僕に食いついて来た。
「よく見たら『ヒカリ・ウィンガート伯爵』ではありませんか!」
「えっと……」
「お兄様、自分の婚約者には目もくれないのに王族の婚約者候補は奪い取ろうとするのですね?」
「こんだけ離れて座ってるのにそう見えるのか?」
「全く、冗談だとわかりませんの?」
わざとらしくビックリして戯けるが、ハクトさんはどこ吹く風で受け流す。
「そういえば、ご挨拶がまだでしたわね?」
目の前の女性は綺麗な礼を一つして、自身の名を名乗る。
「初めまして。わたくし『シロ侯爵』の娘『フラン・シロ』と申します。あなたのご友人の『アリア・セルライト』と、ユアン様の婚約者候補争いをしておりますの!」
「あ、私は『ヒカリ・ウィンガート』です。『ウィンガート伯爵』の娘です。よろしくお願いします」
僕も大急ぎで立ち上がって姿勢を正して礼を一つ。
「しかしまぁ、顔だけ婚約者と言われるだけの可愛さはしておりますわね?」
「…………へ?」
「ユアン様とあの女がよく話題に出す割には、オドオドしてますし、拍子抜けですわね?」
「…………」
こいつ、初対面だよね? たった一言交わしただけで何がわかるんだ?
「まぁそんなことどうでもよくて」
「…………」
そして興味なさそうにくるりと僕に背を向け、再びハクトさんの下へと駆けていく。
「お兄様! 早く行きますわよ! でないとお母様に怒られてしまいますわ!」
「ったく……」
何があるのかわからないが、ハクトさんは心の底から嫌そうに一言声を漏らし、フランさんに連れられる。
「では失礼いたしますわね、ヒカリさん?」
気味悪いほど綺麗な笑みを浮かべて手を振り、嫌そうな顔をするハクトさんを引きずって去っていった。
「嵐のような人だった……」
そして再び一人になってしまった。
しかしまぁ、王族の婚約者候補とは思えないほど口が悪くて自己中心的で、スーちゃんとは違う、嫌な意味で傲慢を進んでそうだ。




