204話 良心は痛む
その日の放課後。
スーちゃんが部活動まで送り届けてくれ、現在『新・音楽部』。
「ヒカリちゃん、暗いままね?」
「ユウ様…………はい」
結局気持ちは戻らず、意味もなく悩んだまま。
「ヒカリちゃん、考え過ぎてない?」
「シイラギさん?」
そんな風にうだうだしていると、部活動中のシイラギさんが隣に座ってきた。
「今日ソラさんは?」
「あいつ体調不良で休み! で、ヒカリちゃんのことなんだけど」
「うん」
「僕からしたら、どうして話し合うのかなって気持ち」
「どうして……?」
「うん」
シイラギさんは必死に頭を捻り、ゆっくり言葉を出す。
「苦手な相手なら……別に話しかけられても無視でいいんじゃないかなって」
「無視……か……」
それは、どうなんだろう。
「不快にならない?」
「なるけど、今ヒカリちゃんが不快な想いしてるし、無理して関わるくらいなら無視決め込む方が良いんじゃない?」
「うーん……」
あんまり納得できない。それともこの世界の価値観だとこんなものなのか。
「でも、出来るならお互い不快にならない方が……」
「おぉ……」
「ん?」
僕の呟きを聞いてシイラギさんが思わず声を漏らす。
「ヒカリちゃんすげぇ……」
「えっと……何が?」
「いやだって『女子の世界は蹴落としあい』ってスイカもサンも言ってるし、それなのにヒカリちゃんは…………なんか、流石王族の婚約者候補って感じ」
「あはは……」
すげぇ、前世と今世の価値観の差をモロに感じた。
確かに、蹴落としあい前提だと僕の考え方の方が異質だ。
まぁ相手のリョウ・ミドロが男子なのは一旦置いておこう。
「でも、ヒカリちゃんが綺麗過ぎるのは同意かな?」
「モモさん?」
ひょいと話に参加してきたモモ・ナデシコさんが僕の頭に手を乗せる。
「何考えてるかわからない相手は無視するのが定石でしょ? 寧ろ律儀に相手してると変に脈ありって思わせちゃうし」
「な……なるほど……」
そんな定石知らないけど、ロクにお茶会開いて来なかった人間だから頷くしか出来ない。
だって知らないし。
「というか、何をどうしたらこんなピュアな子になるの?」
「不思議ですよね?」
「えっと……」
まぁ箱入り娘な自覚はあるけど、その箱が家族と公爵家の二重箱だったからね。
「良いなぁ、私もこれくらいピュアになりたい!」
「モモには無理だろ! もう打算でしか動けない身体になってるし?」
「おいフウ・オウレン、部長に言いつけても良いんだぞ?」
「待ってごめん、許してくださいモモ様!」
同じ侯爵なのに、なんか力差を凄い感じるな……。
「それで、ヒカリちゃんはどうするの?」
「どうするって?」
「リョウのことだよ。今日はいないけど部活動も同じだし」
「うーん……」
正直、もう話し合いはしたくない。
ただ、このまま終わっていいとも思わない。
「様子見……かな? とりあえず、話しかけられたら無視してみる」
「うん、僕もそれでいいと思う」
「ありがとねシイラギさん」
「いやいや、ヒカリちゃんには優しくしないと婚約者に怒られるし」
「打算だ……」
ちょっと良心は痛むけど、貴族社会なんてこんなもんだと割り切ろう。
「そういえば、学園祭の案内が来たけど、部長は『新・ダンス部』と協力する気満々なんだよね。皆んなはどう思う?」
僕の話題が止まったのを見切り、一枚のチラシを教室にいる全員に見せる。
「学園祭ってもう直ぐなんですか?」
「あと三ヶ月後だね。結構あるように見えるけど、一年はこのあたりの楽器で合唱するのに慣れてないし、意外と時間はないね」
「一年も出るんだ……」
バンドを『合唱』と言うあたり、本当に『新・音楽』は浸透していないだろうし、一年には荷が重い気がする。




