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203話 価値観


「はぁ…………」


 ヒカリちゃんが去った後、俺は重い足を動かせずにいた。


「まさか、あんなに嫌われてるとは……」


 婚約に恋愛を持ち込む必要はない。実際それは事実だし、恋愛婚の方が珍しい。


 しかし、ここまで嫌われていると、どうにかルージーとの婚約を破棄出来ても、ヒカリちゃんを取り込めない。



「リョウ!」

「ん?」


 途方に暮れていると、後ろからアイネが駆け足でやってきた。


「リョウ、大丈夫?」

「大丈夫?」

「うん、だってかなり眉間に皺寄ってるから」

「マジ?」


 急いで眉間に手を当てて隠す。


「いやいや今更遅いよ? もう見ちゃったし!」

「あはは、恥ずかしいところ見せちゃったね?」


 どうにか笑みを作ってお茶を濁す。


「というか、なんかごめんね?」

「ん?」

「ヒカリさんがリョウと話し合おうって言ったのって、今日スティア様と喧嘩したからでしょ?」

「うん、そうだけど、どうしてアイネが謝るの?」

「だって、私とスティア様の言い争いに巻き込んじゃったし」

「巻き込んだ……か……」

「リョウ?」

「…………」


 ヒカリちゃんは『私たちが元凶』って言ってた。


 実際その通りだけど、喧嘩したのはアイネとスティアさんだ。


 何故あそこまでスティアさんに過干渉なのか、俺からしたらそっちの方が理解出来ない。



「ううん大丈夫! 俺こそごめんね、なんかヒカリちゃんとのいざこざに巻き込んじゃって」

「じゃあ……お互い様ってことで!」



 アイネはニコリと笑って話を済ませ、そこから先は世間話をしながら教室に戻る。



「お、リョウお帰り!」

「どもども! こっ酷く嫌われたぜ」

「ありゃ、そりゃお疲れ様!」


 教室に戻るといつもの五人が出迎えてくれて、ようやく七人揃って昼休憩だ。


「しかし、ヒカリさんもシャイナさんも過干渉だよね?」

「ね? なんか価値観の違いをヒシヒシと感じる」

「婚約者候補同士だからかね?」

「あはは……」


 正直俺もちょっと過干渉過ぎやしないかって感じる。


 確かに俺とヒカリちゃんの衝突が原因だけど、少しスティアさんとシャイナさんは過剰な気がする。



 まるでヒカリちゃんには絶対に触れさせないと思わせるほど。



「はぁ、流石に落ち込むわ……」

「リョウでも落ち込むことあるんだな?」

「ったり前だろ! 下手したら来年も同じクラスだぞ? 俺成績落とす気ねぇし?」

「あ〜、確かにそりゃ大変だ……」


 正直金輪際関わらなければ良いことだけど、何故かヒカリちゃんはその考え方否定してるっぽいし。



 一体何が不満なんだろう。本当にわからない。

 なんで嫌いな相手にまで歩み寄ろうとするんだろう。



「まぁなんだ、今日奢ってやるから落ち込み過ぎるな!」

「ありがとうハクア」


 嫌われてしまったのはしょうがない。あまり干渉せず、他にルージーとの婚約破棄した後の身寄りを探せば良い。


 ただ、僕に釣り合う家格なんて殆ど残っていない。


 父上が納得してくれるだろうか……。



*



「そっかぁ……」


 その場にいる全員にリョウさんとの話し合いのことを話すと、中々眉間に皺を寄せたような反応が返ってきた。


「どうすればよかったんだろう……」


 別にクラス全員仲良くしたい訳ではない。そんなの絶対無理だし。


 でも、嫌いだから関わらないってのも無理な話だ。

 何せ、僕とリョウさんが属しているクラスは、成績上位が集まったクラス。


 お互い勉強を怠らなければ、来年も確実に同じクラス。


 お互いクラス内でそれなりに目立つし、それなら仲良くするに越したことはない。



「まぁあまり関わらないに越したことはないけど、スーちゃんやシャイナちゃんの話を聞くに、リョウさんがヒカリちゃんに執着してるのよね?」

「執着って言葉じゃ緩いわね!」

「スーちゃん、大分怒ってる……」


 シャイナちゃんが顔を真っ青にしているが、多分僕も真っ青にしている。


 スーちゃんがあまりにも露骨に怒ってる。


「スーちゃん、落ち着いて?」


 そしてユウ様もスーちゃんを宥めるように背中を摩る。


「だって許せないもの! 嫌がってるって分かっててあの接し方? 本当に人の心持ってるの?」


 いやもうブチギレだ。なんなら僕より怒ってる。



「しかしまぁ、ヒカリちゃんも大変だな?」

「ユアン様他人事……」

「そんなことないぞ? まぁある程度、人間関係が絡まることは予想出来てたし」

「うん……」


 学園入学前ユアン様と会った時から忠告されていたが、本当にその通りになっている。


 僕の行動や発言が、大きくクラスを左右している。



「本当に……どうすれば……」


 答えを持ち合わせていない僕は、途方に暮れるしかなかった。

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