198話 まるで初心
翌日。
「ヒカリ様、そろそろ起きないとレオン様のお迎えが……」
「うん…………そうなんだけど……」
「どうされました?」
「…………あんまり寝れなかった」
「そうですか」
「うん……」
別に考え事をしていたわけではない。会うのが緊張するわけでも、急にドキドキしたわけでもない。
ただ、今会うのが怖い。
時間が過ぎるのが怖くて、ようやく寝れたと思えば眠りは浅いし。
「シャルゥゥ……」
「昨日の話を引き摺っているのですか?」
「ううん、もう引き摺ってない。レオンが好き」
「…………あっさり認めましたね」
「うん」
そりゃ昨日あれだけ諭されれば、嫌でも自覚する。
「なら何故?」
「ちょっと、どう振る舞えばいいのかわからなくて……」
「今まで通りでいいじゃないですか」
「それが出来そうにないから困ってるの!?」
何をサラッと無理難題を申しているんだこの人! 本当は未婚者で恋なんてしたことないんじゃないか?
「なんか、変に緊張する……」
「まるで初心じゃないですか……」
「初心ですが?」
すげぇ呆れた顔してるけど、呆れる前に同情して欲しいよ?
「ここで油を売っても仕方ありません。とりあえずお着替えされて食堂に行きましょう」
「うん……」
軋む身体を動かして制服に着替え、シャルと一緒に食堂へ向かう。
「おはようヒカリ。今日は遅かったわね?」
「お母様、おはようございます。コウは?」
「もう食べ終えてお勉強始めたわ?」
「そっか……」
少しコウと話したかったけど、僕も時間が差し迫ってるからしょうがない。
「何かあった?」
「あったけどシャルに教えてもらって?」
「ヒカリ?」
せっせと食べ終え、カバンを持って挨拶もせずに家を出る。
まだお迎えの馬車は着いていないが、今は外の空気を吸って一人で整理する時間が欲しいから都合がいい。
「どうしよう……」
果たして平静を保てるだろうか。
そのまま待つこと数分。
王族の馬車が…………否、何故か普通の馬車が玄関の門に止まり、ゆっくり扉が開く。
「ヒカリちゃんおはよう!」
「おはようヒカリちゃん!」
「あれ? スーちゃんとシャイナちゃん?」
護衛という名のお出迎えに来たのは、レオンではなく親友の二人。
「ヒカリちゃん! ぼーっとしてないで学園行くよ!」
「う、うん、おはよう?」
何事もないように手招きしてくるスーちゃんだが、正直訳がわからない。
まぁ立ち止まってても仕方ないので、そのまま馬車に乗り込み、三人で学園へ向かうことに。
「それで、どうして二人が?」
まぁ二人と一緒に過ごせる時間が増えるのは嬉しいし、まだ気持ちの整理も出来てない。
レオンには悪いけど、ちょっと好都合だ。
「あれ? ヒカリちゃんのところに手紙来てない?」
「手紙?」
「昨日の夕方に来たと思うのだけど……」
シャイナちゃんはカバンから王族印の手紙を取り出して僕に渡す。
そこにはーー
『レオン様の婚約者候補様へ
昨日の夕方から、レオン様が体調を崩してしまい、明日の学園を休ませることにいたします。
つきましては、誠に勝手ながら明日、ヒカリ様の護衛を、スティア様とシャイナ様にお任せしたく存じます』
堅苦しい文でそう書かれていた。
「昨日の夕方…………部屋に引きこもってた時間ね……」
昨日、お父様とお母様も帰りが遅かったし、今日僕が起きるのも遅かったし、僕まで伝わるタイミングがなかったのだろう。
「……ヒカリちゃん、露骨に残念そうにしてるわね?」
「へ!?」
スーちゃんは何を言ってるの? どちらかと言うと今は少し安心してますが?




