197話 好き
「あれ、ヒカリ様とコウ様、シャルもお帰りになられていたんですね。夕食温め直してきますので、広間でーー」
「私がやるので大丈夫です。それよりあなたは勤務時間過ぎているので早いうちにあがりなさい」
「じゃあお言葉に甘えて、僕は失礼いたします」
一礼して男性は去っていき、家には本当に三人だけが残った。
「では、温め直してきますので、ヒカリ様とコウ様は広間でお待ちください」
「ありがとうシャル。少し気持ちの整理もしたい」
シャルは厨房に、僕とコウは広間の椅子に座り、静かな時間を過ごす。
「ねぇお姉様」
「どうしたのコウ」
「お姉様ってレオン様が好きなの?」
「…………わかんない」
「わかんない?」
「うん」
こういう時は本当に前世の感覚が足を引っ張る。
「コウって、オハナちゃんのこと好き?」
「うん! 大好きだよ!」
コウは満面の笑みで誇らしく返す。
「オハナちゃんのどんなところが好き?」
「元気なところ! あと笑顔!」
「おぉ……純粋過ぎて眩しい……」
あまりに綺麗な感想だ。というか笑顔が好きって、コウって意外とキザな子?
「オハナちゃん、笑うと凄く可愛いの! だから僕も元気になるんだ!」
「そっか、オハナちゃんもコウのこと好きなんだね?」
「うん!」
いいなぁ、こんな綺麗な両想い。
「お姉様は?」
「え?」
「なんでレオン様のこと好きかわかんないの?」
「それは……」
「?」
ダメだ、何も言葉が浮かばない。
「……私は、コウが羨ましい」
「?」
頭にハテナを浮かべていそうな表情をしているが、頭にハテナを浮かべたいのは僕の方だ。
「ヒカリ様は深く考え過ぎかもしれません」
「シャル……」
シャルが温め終えた夕食を乗せたワゴンを持ってきて、僕とコウに配る。
「気持ちなんて理屈で語れるものではありません。王族の婚約者候補とはいえ、ヒカリ様はまだ子供なのですから、自分の気持ちに愚直な方が可愛らしいですよ」
「…………よくわからない、どういうこと?」
「簡単ですよ。レオン様相手に、アリア様やカルラ様同様の接し方が出来るか。それだけです」
「…………」
あいも変わらずシャルの言っていることを上手く飲み込めない。
「レオン様相手に可愛く見られたい。恥ずかしいところを見られたくない。そういう気持ちはありますか?」
「そりゃ…………相手は王族だし」
「身分や立場を気にせずに…………いえ。今は何言ってもダメな気がするのでもういいです」
「シャル! 諦めないで!?」
「なら、ヒカリ様も逃げないで下さい」
「逃げ……る?」
僕が逃げてる? 何から?
「ヒカリ様、王族だからとか護衛だからってはぐらかしてばかりじゃないですか」
「うぐっ……」
それは確かにそうだけど……。
「全く、二年前のヒカリ様の方がよっぽど覚悟が決まった顔してましたよ?」
「もう言わないでシャルゥゥ……」
現実突きつけられ過ぎてもう心がズタズタだ。
*
食事も終わり、シャルも帰宅。
今は部屋で一人でシャルに言われたことを考えている最中だ。
「私は…………」
別に恋愛が嫌なわけじゃない。けど、前世含めた恋愛経験が無さ過ぎて、自分の心内が全くわからない。
「……いや、本当はわかってるんだ」
多分、好きなんだ。だってキスされても嫌じゃないし、レオンが護衛になってちょっと嬉しかったし。
何より、スーちゃんとシャイナちゃん以外の異性と話している姿を見て、嫉妬せずにいられるのか。
多分……無理だ。
レオンが絶対に嫌いなかまってちゃんの侯爵相手にすら、嫉妬してる。
そうでなかったら、婚約者候補なんて辞めている。
全く、二年前の、十歳の時から分かりきってたことなのに、なんで今になって逃げてたのだろうか。
「…………カルラくん、私、嘘つきだ」
全然、わからなくなんてない。凄く好きだ。
「私は……どうすれば……」
強引とはいえ、自分の気持ちに気付かされた今、カルラくんとどう向き合えばいいのか。
明日、レオンの目をちゃんと見られるだろうか……。




