195話 もしも婚約者候補から外れたら
「あ、ここって!」
「どうしたのカルラくん」
目を大きく開いて通り道にある噴水を指さす。
「ヒカリちゃんと沢山お話しした場所!」
「………………?」
何か大切な話をした場所なのだろうか。残念ながら僕の記憶にはまるで残っていない。
「…………ちょっと私とコウくん、適当なカフェでジュース四つ買ってくるから、二人はここで待ってて?」
「え、アリアちゃん?」
「お姉ちゃん?」
何を悟ったのか、不意にコウを連れてその場から離れてしまい、僕とカルラくんは取り残されてしまった。
「どうしたんだろうアリアちゃん」
「お姉ちゃん…………」
不可解な行動にハテナを浮かべるしか出来ないが、とりあえず二人で適当なベンチに座って待つことにした。
「風が気持ちいい………………あ、もしかしてここって!」
「ヒカリちゃん思い出した?」
「うん、完全に思い出した!」
温かい日差しに目を細めていたら、不意にカルラくんが言っていた「たくさんお話しした場所」を思い出した。
目の前の噴水と、取り囲むように並んでいる花壇。
記憶の奥の奥までしまいこまれていたけど、初めてカルラくんと二人で遊んだ時にきた場所だ。
「…………ねぇヒカリちゃん」
「カルラくん?」
何か覚悟を決めたように、座る僕の前に立ち上がる。
「さっき言ったよねヒカリちゃん。まだレオン様が好きかどうかわからないって」
「うん、そうだけど……」
「な……ならさ!」
「うん」
カルラくんは手を強く握って深呼吸を一つ。
「もしも婚約者候補から外れたら…………僕の婚約者になって欲しい!」
「カルラくん……」
「本気だよ、ヒカリちゃん!」
全く顔を赤く染めず、真剣な眼差しで見つめてくる。
「どうしたの急に」
「急じゃないよ。ずっと、ずっとヒカリちゃんが好きだった。でも、ヒカリちゃんが学園に入学して、中々会えなくて、それが僕は辛くて……」
「うん」
「僕、まだ婚約者いないんだ。ヒカリちゃんが好きだから、お父様とお母様にも無理言って、ずっとお見合いを蹴ってきたんだ」
「そうなんだね……」
カルラくんが僕のことが好きなのはずっと知っていた。本気で恋しているのも知っている。
でも、将来を左右させるほどの熱量があるなんて知らなかった。
「前にヒカリちゃん言ったよね? もしも名前の知らない平民と結婚したら? って」
「うん、カルラくんが躓いてた歴史の勉強の時だよね?」
「その時思ったんだ。レオン様なら諦めるしかないけど、僕の知らない人にヒカリちゃんを取られたくないって」
「…………」
「だから、レオン様が嫌になったら、僕と婚約して欲しい! ヒカリちゃんと隣なら、なんでも出来る! 絶対に幸せにするから……!」
「カルラくん……」
まさか十二歳で本気のプロポーズを受けるとは。しかも相手は九歳の男の子。
でも、この世界だと『少し早い』程度の告白でしかない。
だって、七歳のコウですら婚約者がいるんだから。
「そうだね、先のことはわからないけど……」
「…………」
「もしも婚約者候補から外れたら、慰めてね?」
「ヒカリちゃん?」
「その時にまた考えるよ! 今はまだ保留かな?」
「そっか…………」
少しガッカリした様子だけど、気持ち一つで即決する話でもないし。
でも、気持ちは充分伝わった。
「お待たせ二人とも!」
「お待たせ〜!」
まるでタイミングを図ったように、丁度良くアリアちゃんとコウが両手にジュースを持って戻ってきた。
「お姉様、カルラくんと何話してたの?」
「うーん……」
コウからジュースを受け取り、少し考える仕草を一つ。
「秘密かな?」
「えぇ、お姉様のケチ!」
「こらコウ! 誰がケチだ!」
「いでっ!?」
馬鹿を言うコウの頭をチョップしてじゃれあい、適当に機嫌をとる。
「ねぇアリアちゃん、カルラと二人きりにしたのって」
「んん? なんのこと?」
「……ううん、やっぱりなんでも」
多分アリアちゃんはカルラくんが、今日どこかで僕に気持ちを伝えることを知っていたんだ。
事前に話し合ったのか、それとも察したのか。
「ねぇお姉ちゃん」
「どうしたカルラ」
「…………返事はお預けだった」
「そっか。カルラ頑張ったね」
「うん」
そして少し涙を流したカルラくんを、今の僕は見て見ぬふりしか出来なかった。




