191話 時間が過ぎれば過ぎるほど
「…………」
「か……可愛い……!」
以前にもヒカリちゃんの寝顔は見たことあるけど、その頃と変わらず、いや、あの頃よりずっと可愛く見える。
「ってダメだ! 集中しないと!」
取り敢えず理解が及ばないところは飛ばして、次に進もう。
「…………」
しかし、一度眠っているヒカリちゃんを意識すると、どうしても集中出来なくなってしまい、何度もヒカリちゃんの方を向いてしまう。
「……ダメだ」
思い切り伸びをして、一度リセットし、ゆっくり椅子を立ち上がる。
そしてヒカリちゃんの寝顔を眺めるようにしゃがみ、ぼーっと見つめる。
「ヒカリちゃん」
「んん……」
「っ!」
気持ちよさそうに眠る姿は、僕よりもずっと幼く見える。
「ちょっとだけ……」
少しだけ自分の気持ちに従い、人差し指でヒカリちゃんのほっぺをつつく。
「どうしよう……凄く可愛い……!」
少しくすぐったそうにしているが嫌がる様子はなく、気持ちよさそうな寝息を立てたまま。
他の令嬢には決して抱いたことのない、胸の奥がくすぐったくなる感覚。
決して外見だけで好きになった訳じゃないけど、この可愛さはずるい。
「ねぇヒカリちゃん。僕、沢山の貴族の人と関わったけど、ヒカリちゃんより好きな人、出来なかった」
ヒカリちゃんより可愛い人なんていなかったし、ヒカリちゃんより優しい人もいなかった。
そして何より、ヒカリちゃんより僕を見てくれる人なんて、誰もいなかった。
時間が過ぎれば過ぎるほど、ヒカリちゃんが好きになっていく。
「ねぇ、本当に、レオン様と結婚しちゃうの……?」
気付けば頬をつつく手が止まり、気持ちがどんどん悪い方へと流れていった。
*
「……んん」
どうやら私は眠っていたらしく、ゆっくり身体を起こして伸びをする。
まぁ朝早くからセルライト公爵家にお邪魔したし、少し寝不足だったかもしれない。
それにしたって他人のベッドで寝るのは普通にダメだった。
「あ、ヒカリちゃん起きた」
「カルラくん……えへへ、寝ちゃってた」
「う、うん、それよりヒカリちゃん」
「ん?」
カルラくんの視線が妙に泳いでおり、落ち着かない様子。
「えっと、服装が……乱れて……」
「え? あっ!?」
寝ていて気付かなかったが、スカートが少しだけ捲れており、思春期の男子には中々目に毒な姿になっていた。
「ご、ごめんなさい!」
「い、いえ……その、僕もごめんなさい」
「あ、あはは……それから?」
「…………ご……ご馳走様です」
「素直だね?」
耳まで真っ赤に染まっているカルラくんは、非常に初心なのか、服を整えた今でも目を泳がせている。
「カルラくん、因みに寝てる間に何かした?」
「…………ごめんなさい、頬を突きました」
「別に謝らなくていいよ? 寝ちゃった私がいけないんだし!」
ちょっと責めるような言い方をしてしまった僕がダメだった。
「で、感想は?」
「ヒカリちゃん!?」
「あはは! ちょっとイジワルだった?」
「イジワルだよ! でも、可愛かった」
「頬つついて可愛かった?」
だいぶ不思議な感想だ。
「それで、私ってどれくらい寝てた?」
「一時間ほどですよ?」
「結構寝てる!」
勉強教えるために来たのに、一時間もひとりぼっちにさせてしまった。
「あ、でもそろそろ休もうかなって思ってたので、もしよかったら一緒にお茶して欲しいな……なんて」
「カルラくんがそれでいいなら」
「やった!」
カルラくんは椅子から元気よく立ち上がり、扉の奥にいたメイドに言伝を一つ。
「応接室が空いてるから、そこでもいい?」
「うん、大丈夫よ!」
「やった! ちょっと聞きたいこともあるから丁度よかった」
「聞きたいこと?」
何か勉強で躓いた? だとしたらここで聞けるし、一体なんだろうか。
「取り敢えず応接室でゆっくりしよ?」
「うん」
まぁ今考えてもわからないので、カルラくんの後をついていき、応接室でゆっくり休憩をとろう。




