190話 飛び級のために
「ねぇカルラ」
「何?」
「飛び級入学、してみない?」
僕はお姉ちゃんにそう言われた日から、来る日も来る日も勉強していた。
僕はまだ九歳で、学園入学まで本来なら三年必要。
でも、ヒカリちゃんと学園生活を送りたい。
だから今は飛び級で入学するために必死だ。
辛いのはこの一年だけだし、来年入学出来たら、カキツバタくんとも一緒に学園生活を八年送れる。
そうしてヒカリちゃんが学園に入学して三ヶ月。
「久しぶり!」
「お……お久しぶり……です!」
コウくんとも、カキツバタくんとも遊ばず勉強していた僕の前に、好きな人が満面の笑みで僕の部屋にいた。
ヒカリちゃんの髪色と同じ色の、ピンクのワンピース姿は、思わず見惚れてしまうほどよく似合ってる。
「……お姉ちゃんの差金だな!」
「うん、アリアちゃんがカルラくんの勉強見てあげてって! 午後からは四人で出かけたいんだって?」
「……」
正直凄く魅力的な誘いだ。最近全然遊んでないから、どこか行きたいし、相手が可愛い姿をしたヒカリちゃんなら尚のこと。
でも、今はダメだ。
「……すみません、僕は遠慮します」
「どうして?」
「うっ……」
ダメなのに、好きな人のしゅんとした姿が目に入ってしまい、どんどん遊びに行きたくなってしまう。
今は勉強しないと。そうしないと、もしも来年学園に飛び級入学出来なかったらーー
「ねぇカルラくん」
「ヒ、ヒカリちゃん!」
気付けばヒカリちゃんは僕の顔を近くでじっと見つめており、僕はどんどん顔が熱くなっていく。
「午後だけでも一緒に遊ばない?」
「あう……あ、で、でも……!」
「…………」
「…………遊ぶ」
「やった!」
そして五秒も保たずに僕は陥落した。
だって、ヒカリちゃんが僕と遊びたいって。お姉ちゃんやコウくんもいるけど、僕とも遊びたいって。
好きな人にそんなこと言われたら、行きたいに決まってる。
「だったら尚のこと、今頑張って勉強しないと!」
「わからないところあったら言ってね? そのためにアリアちゃんが私を派遣したんだし?」
「え?」
ヒカリちゃんが、勉強を見てくれる?
「いいん……ですか!?」
三ヶ月前の時も見てくれたけど、あの時は元々勉強の予定だったし、そもそもヒカリちゃん以外にも沢山人がいた。
これは俗に言う『お家デート』というものでは!?
「全然いいけど……顔真っ赤だよ?」
「はっ!」
しまった、余計なことを考え……余計ではないか。ちょっと舞い上がっちゃったけど、お姉ちゃんも学業と王妃教育で手一杯だし、誰かが見てくれるのはとても嬉しい。
相手がヒカリちゃんなら尚のこと嬉しい!
「あ、でも椅子がない」
「私は立ちっぱなしでも大丈夫だよ?」
「いやそれは……僕が立ちます!」
「カルラくん、立って勉強するの……?」
「あ……いや……」
少し気が動転してしまったが、結局、ヒカリちゃんが立って見てくれることになった。
とはいえ好きな人を立ちっぱなしにしてしまうのは申し訳ないので、ヒカリちゃんは僕のベッドに座っている。
「ヒカリちゃん、暇な時は適当に本読んでていいからね?」
「そう? じゃあお言葉に甘えて! わからない時はちゃんと呼んでね?」
「えっと、じゃあ早速。ヒカリちゃん、ここって」
「どれどれ?」
そんな感じで勉強を続けており、わからないところはヒカリちゃんに教えてもらい、順調に捗っている。
「あ、ごめんヒカリちゃん、これは?」
「ん?」
手に取った大衆小説を閉じ、再び僕の勉強に付き合ってくれ、教え終えたらまたベッドに座って読み始め。
わからないところも見つからないまま気付けば一時間くらい集中していた。
「ヒカリちゃん、ここって……あ……」
ようやくまた一箇所躓き、ヒカリちゃんを頼ろうと呼んだ時ーー
「…………」
「ヒカリちゃん……」
手から小説が離れており、気持ちよさそうな寝息を立てて、好きな人が自分のベッドの上で眠っていた。




