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183話 五歳児の誘拐


「二年間、カルラくんとの繋がりで、コウくんが初めてうちに遊びに来たんだ」

「カルラくんとの繋がり?」

「そう。カキツバタがカルラくんと仲良くてね、そこから繋がったんだ」

「なるほど」


 考えてみれば当然だけど、カルラくんも僕としか関わりがないなんてことはあり得ない。


「それで、コウくんが初めて家に来た時、私も妻も、事業の山場で殆ど手が離せなかったんだ」

「事業の?」

「そう。その頃はまだ侯爵だったから、公爵にのしあがるための準備や事業で、殆どオハナを見てやれなかったんだ」

「そうなんですね……」


 両親共々仕事しており以上、手が離せない時があるのは仕方ないけど、子供はそんな事情知らない。


「私も妻も、アヤメやカキツバタもいるから大丈夫だって思い込んでしまってね」

「……」


 学園生活であまり家にいないアヤメさん、遊び盛りなカキツバタくん、確かに二人に任せ切るには不安が大きい。


「結果、殆どオハナを見る人がいなくて、随分と退屈な思いをさせてしまった」

「オハナちゃん……」


 今ではコウと話して笑顔を咲かせているけど、あんな笑顔が見れない日々があったんだ。


「だから、コウくんはオハナを連れ出したんだ。いっそのこと、僕の家に逃げちゃおうって」

「おぉ……」


 状況が状況だから、きっとオハナちゃんには王子様に見えただろうな。


「それで、執務室に籠る私たちに言ったんだ『オハナちゃんは貰って行く』って」

「………………え、貰って……え?」


 いや二年前のコウは五歳だし、他意はないのだろうけど、両親の前でそれを言う度胸よ。


「そのあとは随分と探したよ。当然だけど馬車は子供の意思で動かすわけにはいかないから、下町を右往左往して」

「ほ……本当に何やってるの……」


 五歳の子供二人で下町に? 絶対お金なんて持ってないだろうし、身代金目当ての誘拐が……。


「ようやく見つけた頃には、二人とも泥まみれでね。でも、あんな元気に笑うオハナを見たのは久しぶりだったね」

「……」


 どこでどう見つかったのかわからないが、きっと忘れられない時間を過ごしたのだろう。


 僕が、レオンを王城から連れ出したように。



「これを機に、事業と家族の天秤を見直したりして、家族がオハナを見る時間が格段に増えたんだ。そして、オハナがコウくんのことを好きになった」

「なんというか…………コウらしいというか……」


 誇らしいのと同時に、無性にムズムズするのは気のせいだろうか。



「最初は俺と遊んでたのに、気付いたらコウくん取られちゃってるし」

「カキツバタ、ジェラシー?」

「うぜぇ……」


 カキツバタくんは果たしてどっちにやきもちを焼いているのだろう。


「はぁあ、カキツバタも早く婚約者を探しなさい!」

「いいや! 俺はアリア様が本当にユアン様の婚約者になるか決まるまでいらない!」

「全く……!」


 アヤメさんの心配そうな目を他所に、カキツバタくんは一途な想いを胸に秘めてそうだ。


「そっか、カキツバタくんはアリアちゃんが好きなんだ!」

「はい! 綺麗で優しくて、芯がしっかりしていて、人想いなところが好きです!」

「おぉ、言い切った」


 ガッツリ恋してるじゃん。


「来年にはユアンの婚約者も決定だし、その時には存分に慰めるからね?」

「俺はまだ諦めてない」

「あはは……」


 なんか、カルラくんを彷彿とさせる一途さだな。

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