173話 護衛
「た……ただいま……」
「おかえりなさいませヒカリ様。アリア様?」
「すみません、少しお邪魔いたします」
僕はアリアちゃんの肩を借りて、ふらふらしながら庭を歩く。
「どうされましたお嬢様」
「熱出ちゃって、アリアちゃんに馬車で送ってもらって」
「なるほど。アリア様、お代わり致します。ヒカリ様をここまで送って下さりありがとうございます」
「いいわよそれくらい」
アリアちゃんは肩から僕の腕を離し、シャルはそのまま横抱きする。
「とても熱いですね」
「私も入っていいかしら? 詳しいことは知らないけど、大体のことは話せるわ」
「承知いたしました」
シャルは近くにいた他のメイドに伝達してアリアちゃんの案内を任せ、僕は抱かれたまま家に入り、自室のベッドに寝かされた。
少しして、メイドに案内されてきたアリアちゃんと、お父様、お母様が一緒に部屋に入ってきて、二人とも少し眉間に皺を寄せていた。
「お……お父様、お母様」
「アリアちゃんから少し聞いたわよ? 監禁されたんだって?」
「………………はい」
正直、家族には知られたくなかった。
心配かけたくないし、スカラ侯爵は『貴族至上主義』だから、それが引き金で『ウィンガート伯爵家』自体に嫌がらせが始まるのも嫌だ。
「監禁……」
「シャル?」
「すみません、嫌なことを思い出しまして」
シャルはお父様やお母様よりも、一番大きく顔を歪めていた。
「相手は……侯爵ですか?」
「うん」
「……本当、昔から変わっていませんね。腑が煮えくり返りそうです」
いや、歪めているどころかピキってる。
まぁシャルは幼い頃、トワ様にも使えていたらしいし、今度は主人の妻の娘が監禁事件に遭遇したんだ。
ブチギレどころじゃない。
「それで、ヒカリちゃんには護衛が必要って話になって、多分明日あたりに王族から手紙が届くかもしれません」
「護衛ねぇ?」
「お母様?」
護衛と聞いた途端、お母様は嫌そうに頭を抱える。
「……高いの?」
「お金じゃないわ? 自由の問題よ」
「?」
護衛ってそんなに自由が縛られるものなのだろうか。
「一時期トワにも護衛つけてたけど、半年過ぎた頃には『もう護衛いらない!』って駄々こねてたわね?」
「トワ…………トワ・オリスティナ様ですか?」
「そうよ? 私とトワって姉妹なのよ」
「おぉ……」
アリアちゃんが呆気にとられてる。
いや現王妃と姉妹って聞いたら誰でもビックリするよね。
「一人で歩いてても護衛の視線を感じるし、外出可能な時間も決まってるしで、窮屈だったって」
「えー、嫌だな……」
護衛の人もずっと屋敷の前で、護衛対象が町を歩くのを待っているなんて出来ないし、電話なんてものもないから、直ぐ伝達して直ぐ来るなんてことも出来ない。
「でも、ヒカリのことを考えると、誰か側にいてくれないと、また事件に巻き込まれるかもしれないし」
お父様とお母様は、それぞれ違う理由で僕を心配そうに見つめている。
「そう言えばヒカリ様は何処に監禁されたんですか? 学園内なら学園で護衛付ければ良いですし、帰り道に監禁されたなら、外でだけ護衛を付ければーー」
「シャル! 冴えてるわね!」
お母様がポンと手を叩いて思わず立ち上がる。
「それで、何処で監禁されたのですか?」
「えっと……」
これは全部言って良いものなのか。いやこれだけ心配させているのに、今更言い渋るのも変な話か。
「体育倉庫で、髪引っ張られて、転ばされて、水かけられてから監禁されて……それで熱が出ちゃって……」
「フィリア、学園では護衛つけよう」
「そうね、プライベートも護衛を要検討ね」
「取り敢えず登下校は馬車を使用しましょう」
「……」
なんか、少しも口を挟む間もなく一瞬で全て決まった。
「ヒカリちゃん、もし休みの日の護衛が嫌なら、私を呼んでね? ヒカリちゃんと遊べるならどんな用事も後回しに出来るわ!」
「アリアちゃん……!」
確かに、アリアちゃんといる方が護衛の名目で監視されるよりよっぽど良い。
むしろアリアちゃんと一緒に遊びたい。
「私がそろそろ失礼するわ? カルラの勉強見ないといけないし」
「アリアちゃんありがとね?」
「いいのよ全然! 何かあったら手紙送って頂戴! 直ぐ駆けつけるから! またね!
「またねアリアちゃん!」
お互い手を振り、部屋を去っていった。
「ヒカリも今日は休みなさい」
「うん、出来ればコウには内緒にしてくれない?」
「勿論だよ。流石にこんなこと話せないからね」
お父様もゆっくり立ち上がって部屋を去っていった。
「ヒカリ、私とシャルは今日はここで仕事するから、何かあったら言いなさい?」
「うん、ありがとうお母様、シャル」
「いいのよ? シャル、資料全部ここに持ってきて頂戴?」
「承知いたしました。ついでに薬も幾つか持ってきます」
シャルも部屋を去り、お母様はベッドに座ったまま僕の頭を撫でる。
「ヒカリ」
「お母様?」
「私もオズワルドも、シャルもミューゼも、全員あなたの味方だから、辛いことがあったらちゃんと言いなさい?」
「うん……ありがとうお母様」
僕は大きなあくびをして、お母様とゆっくりお話ししながら、そのまま眠りに落ちた。




