172話 スカラ侯爵きょうだい
俺はヒカリさんとアリアさんのいた保健室を離れ、校門前である人物を待っていた。
約束を取り付けたわけでもないし、もう帰ってる可能性もある。
だけど、あいつはいつも小蝿のようにレオン様を探し回るから、下校のピークを過ぎてから帰ることの方が多い。
「……なんでこんな習性まで知ってんだろうな俺」
「あらお兄様、校門前でみっともなく何を突っ立っているんですの?」
「セイナ……」
目的の人物がルージーと共に、何事もないように現れた。
「お前、また『ヒカリ・ウィンガート』を監禁したのか」
「あら、そんなことがあったのですね?」
「とぼけるな」
「とぼけてなどいませんわ? 私、何も知りませんもの?」
少しニヤリと口角を上げ、わざとらしく首を傾げる。
「フィルお兄様、どうしてセイナさんが監禁した犯人だと決めつけるのですか!」
ルージーは大声を上げて、目を涙で滲ませている。
まるで周囲の人間にあえて聞こえるように、わざと見せつけるように。
「それとも『ヒカリ・ウィンガート』が「セイナさんが犯人」って言ったからそれをそのまま鵜呑みにしたのですか?」
「……」
「お兄様は、そのまま信じたのですか? 妹である私じゃなくて……」
「いや…………そうだな……」
これは良くない。曲がりなりにもセイナは二年で幅を利かせている侯爵だ。
身分の関係ない学園でも、身分を気にする者は多い。
そんな侯爵が、実の兄に冤罪をかけられそうになっている構図が出来上がっている。
「すまない、少し頭を冷やすよ」
俺はその場を去るしか出来ず、そのままいつもの地下室に逃げ込み、ソファに寝転んだ。
「不愉快だ……」
少しでも監禁事件が起きた時間を滑らせたり、誰とどこにいたか話せたら良かったが、そんな上手くはいかない。
むしろあえて騒ぎ立てて、あえて涙を浮かべてみせて、兄の理不尽に演出してみせた。
事件として処理される以上、セイナやルージーも暫く手は出さない。
「このまま……ヒカリさんから手を引いてくれれば……」
そんなことを思い、嫌なことから逃げるように目を閉じた。
*
「セイナさん、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫よ?」
私『セイナ・スカラ』は、笑いを堪えるのに必死だった。
「全く、レオン様はアレのどこが良いのかしらね?」
「えぇそうねルージー、レオン様は高潔で正しいけれど、そこだけは理解出来ないわ?」
だからこそ、アレの存在は邪魔なのだけど。
「たぶらかすのだけは上手よね?」
「そうですね? 職員室で今回のことは事件として捜査するって校長先生が言ってましたよ?」
「あら、流石ヒカリ・ウィンガートね? シン様までどうやってたぶらかしたのかしら?」
でも、事件になるのは面白くない。
名目上とはいえ、アレも準王族。事件に格上げして、強引に自衛を図ったのだろう。
「気に食わないわね?」
図々しくて、とても腹立たしい。
まぁ体育倉庫まで連れてくるのも、体育倉庫の外の蛇口から水を汲むのも、全部『ラジア・リコリス子爵』にやらせたし、私が何かミスをしてても、ラジアまで行けば捜査は止まる。
自警団は、捜査〜逮捕までが仕事で、そこから先は領分じゃない。
「まぁ流石に暫くは何も出来ないし、地道に他のやり方を練る方が良いわね?」
事件の熱りが冷めるまで、迂闊に動けば私まで足が付く。
「折角王妃教育の日を狙ってやったのに、セイナさんの苦労を無駄にするなんて……」
「いいのよルージー、どの道毎週同じ日にやり続けるなんて無茶な話だし」
それに、やりたくはないけど、最後の手段も残っている。
その前に『ヒカリ・ウィンガート』を婚約者候補から引き摺り下ろさないと……。




