171話 準王族
「ヒカリちゃん、今日は私が送るわ? 歩いて帰るなんて出来ないと思うし」
「あはは……ありがとね?」
馬車で通うことはかなり視野に入れているが、どうしても歩いて登校したい気持ちが強い。
リョウさんと遭遇するのは嫌だけど、やっぱり偶然会った友達と話しながら登校は凄く楽しい。
中々馬車での送り迎えに踏み切れない。
不意に外に通じる方の扉が開き、靴を脱いで男性が一人入ってきた。
「あ、タロウさん」
「どうもヒカリさん」
つい最近地上でも見た、地下室に篭りきりのタロウさんだ。
「あら、ヒカリちゃんが言ってた『タロウ』ってあなただったのね?」
アリアちゃんは目を丸くして口に手を当てる。
「そっか、二人は同じクラスだったね?」
三年生の、学年一位と二位。タロウさんはともかく、アリアちゃんには前世バフがないのに、とんでもない秀才だ。
「本名黙っててくれると個人的に嬉しいんだけど……」
「わざわざ言わないわよ『タロウ』さん?」
「俺もしかして、これから脅される?」
「そんなことしないわよ? きっと」
「きっと?!」
二人はまるで旧知の仲みたいな気の置けないやり取りをしている。
「というか、ヒカリさんまた監禁されたの?」
「あはは……今回はちゃんと監禁されちゃった……」
「……セイナか?」
「うん」
「そうか……」
タロウさんは、苦虫を潰したように顔を大きく歪める。
「あいつ……本当に……」
「タロウさん?」
「いやすまない、なんでも……」
「……」
タロウさんはかなり『公平主義』の考えが強いようで、露骨に嫌悪感を露わにしている。
なんかそれだけじゃない気もするけど、多分考えても仕方ない。
「ヒカリさん護衛とかつけた方がいいんじゃないかな?」
「その話ならさっきユアンがしてたわよ?」
「そうなのか。それなら安心だな」
正直、事件として処理される以上暫く嫌がらせや虐めは起こせないだろうし、少し過剰な気もする。
「そもそも護衛って王族につけるものじゃないの?」
「え?」
「ヒカリちゃん!?」
「ん?」
僕がそんなことを呟くと、アリアちゃんとタロウさんは目を見開いて驚く。
「ヒカリちゃん、今は準王族だよ? 婚約者候補でしょ?」
「あ、そういう扱いなんだ」
いや冷静に考えてそうだよな。王族の婚約者って準王族だよな。
「じゃあ私が監禁されたって、大事件?」
「今更!?」
「おい危機感なさすぎだろ……」
再び二人が呆れた様子を浮かべる。
(ちょっと自分の置かれた立場に無頓着過ぎたな)
学園生活に浮かれ過ぎていた。
「護衛、必要だね……」
今更だが、事件として扱う以上、お父様やお母様、シャルやミューゼにもこの話は届くんだ。
「心配かけてごめんね……本当」
「ヒカリちゃんは悪くないんだし、謝る必要ないわ?」
だとしても、立場なんてものを気に介さず自由し過ぎたのは事実だ。
これからは本当に色々気をつけないと。
「すまなかったなヒカリさん」
「…………え、なんでタロウさんが謝るの?」
「そうよ? あなたが何かしたわけじゃないでしょ?」
アリアちゃんも不思議そうにタロウさんを見つめて首を傾げる。
「そうかもしれないが、セイナは…………」
「?」
「……いや、なんでも。俺はそろそろ帰るよ」
「?」
結局、タロウさんが何を言いたかったのかわからないまま、保健室を去って行った。
「なんか、今日のタロウさん変だった」
「そうね? まぁ思うところがあるんじゃない?」
「?」
アリアちゃんは何か知っていそうだけど、本人も言及してないし、今はそれより身体が怠いから考えられない。
「ただいま。ヒカリ、荷物持ってきたよ」
「レオン、ありがとう」
「あとこれ」
「?」
再び戻ってきたレオンは僕の鞄を持ってきてくれ、同時に一枚の写真を見せてくれた
「『げんぞう』が終わったってシャイナが。入学祝いで集まった時の写真だよ」
「ありがとうレオン」
寝たままの状態で写真を受け取り、三人黒いドレスを着て、それぞれピースしている姿が写っている。
「大切にするね?」
「明後日、ちゃんとシャイナにも伝えなよ?」
「うん!」
まだ熱があって、頭は痛くて、身体はだるいけど、少し元気になってきた。




