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170話 正式な『事件』


 三人でのんびりお喋りしていると、廊下から慌ただしい足音が迫ってきて、扉が『バタン』と勢いよく開く。


「ヒカリ!」

「あ、レオンいらっしゃい」

「お父様から聞いたよ、大丈夫なの?」


 急いで来たからか、少し息が乱れている。まぁ僕から見ても余裕がなくなる出来事ではあったけど。


「流石に大丈夫じゃないかな……」


 気を抜いて話しているけど、頭は痛いし身体は怠いし瞼は重いし、正直明日が学園休みで大助かりだ。



「ヒカリ、身体がしんどい中で申し訳ないけど、少し大事な話があるんだ」

「大事な話」


 いつになく真剣な瞳で僕を見つめる。


「私たちいない方がいいかしら?」

「いや、二人も無関係ではないし、二人の意見も聞きたいからいて欲しい」

「わかった……」


 スーちゃんとシャイナちゃんも姿勢を正して座り直す。



「ヒカリ」

「何でしょう」


 レオンは一つ深呼吸して気持ちを整える。


「もしヒカリが望むなら、婚約者候補から外してもいい。このままこんな嫌がらせが続くならーー」

「レオン!」

「っ!?」


 僕は痛む頭を無理やり鎮め、声を張ってレオンの言葉を遮る。


「私は自分の意思で婚約者候補に残ってるの」

「でも……」

「……」


 そう言えば、前にもレオンから「ヒカリが望むなら婚約者候補から外れていい」って言われたな。


 なんか今日は昔のこと思い出してばかりだ。


「レオン、少し焦り過ぎよ? ヒカリちゃんの意思もちゃんと聞かずにその話を出すのは良くないわ?」

「シャイナ……」

「シャイナの言う通りね。そもそもレオンが責任を感じることじゃないわ? 監禁した人が絶対悪であって、レオンは何一つ悪くないもの!」

「スティアも……そうだね、ごめん、今の全部忘れて?」


 レオンの言葉を聞き切る前にスーちゃんとシャイナちゃんが説得し、不甲斐なさそうに笑みを浮かべる。



「よっ!」

「お邪魔しまーす!」

「ヒカリちゃん!」

「アリアちゃん!」


 不意に扉が音を立てて開き、ユアン様とユウ様、アリアちゃん保健室に入ってきた。


「ヒカリちゃん大丈夫……じゃないよね」

「あはは……ご心配をおかけしました」

「全くよ!」


 来て早々アリアちゃんはベッドに座り、僕のデコに優しく触れる。


「お祖母様……ハウ様から連絡よ「今日の三人の王妃教育はお休みね? スタートくらい平等がいいじゃない」だそうよ?」

「あっ……」


 ユウ様の伝達は、かなり僕の動揺を誘った。


(僕が熱を出さなければ……)


「スーちゃんシャイナちゃん、私のせいでごめーー」

「ヒカリちゃんのせいじゃないわ!」

「そうよ?」


 条件反射で謝ろうとしていたが、謝り切る前に二人がストップを入れた。


「……ありがとう二人とも」

「何のこと?」

「何のことかしら?」


 顔を見合わせ、おかしそうに白ばくれる。



「それからもう一つ」


 ユアン様が非常に真剣な声音と表情で僕を見つめる。


「今回監禁されたことだが、お父様が正式に『事件』として扱うと言っていた」

「つまり……?」

「王家直属の自警団が動いて『犯人逮捕』まで動く。相手が学生であろうと『第三王子の婚約者候補』を監禁したんだ。只事じゃ済まされない」

「そっか……」


 学生の虐めじゃなくて、事件として扱われるんだ。


「セイナまで糸が繋がっていればいいんだけど、彼女は用心深いどころじゃないからね……」

「そうなんだ」


 改めて思い返してみれば、僕を体育倉庫まで連れて行ったのも、水をかけたのもセイナじゃない。


 この感じだと、職員室から鍵を借りた、もしくはくすねたのもセイナじゃない。


 きっとレオンも、これまでの関わりで僕以上に実感している。



「とりあえず、ヒカリちゃんには暫く護衛をつけるようお父様にお願いしてみるよ」

「護衛……なんか大事(おおごと)になりましたね?」

「実際大事だからね」

「大事……なんですね」


 ユアン様も本気で心配してくれているし、護衛がいたとしても暫く単独行動は控えた方がいいかもしれない。


「俺から伝えることは以上だ。アリアはもう少し残ってく?」

「うん、ヒカリちゃんといたいし」

「わかった、それじゃあまたな?」


 軽く手を振り、からりとした態度で保健室を出て行った。


「私もお祖母様の伝言伝えたし、部活動もあるから失礼するわね!」

「ユウ様、ありがとうございました」

「うふふ! いいのよ!」


 ユウ様も軽く手を振り、綺麗な笑みを浮かべて保健室を去った。


「私もそろそろ行くわね? ヒカリちゃん無理しないようにね?」

「私も行くわ!」

「うん、スーちゃんシャイナちゃん、ありがとね?」


 手を振る二人に手を振り返す。


「……なら僕は二人を送っていくよ。アリアさん、暫くヒカリをお願いします」

「勿論よ」


 そして三人で保健室を後にして、保健室は僕とアリアちゃんの二人になった。

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