169話 最初のサボり
「ククル先生、失礼するよ」
「あら、校長先生が来るなんて珍ーーどうしたのその子!?」
私たちが保健室に入ると、保健室の先生は目を見開いて驚いていた。
「説明はあとでする。取り敢えずヒカリさんの着替えを」
「わ……わかりました」
「あの、これ着替え!」
「ありがとう」
「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」
保健の先生に予備の制服を渡し、シン様が保健室から退出。
ベッドが濡れるのもお構いなしでヒカリちゃんを寝かせて、不慣れな手つきで着替え始める。
「この子どうしたの?」
「体育倉庫で倒れてて、誰かに水かけられて……」
「何よそれ……虐めじゃない……」
「本当に……許せない……」
シャイナは目に涙を浮かべてヒカリちゃんを見つめる。
そういう私も泣かないよう必死だ。
ようやく着替えが終わり、綺麗なベッドで寝直し、呼吸が荒いヒカリちゃんは、顔が赤く染まっており、触れれば火傷するのではないかと思うほど熱い。
「二人とも、この子の知り合い?」
「親友です。私と、スーちゃんの」
「……よく見たら『スティア・オーラライト』と『シャイナ・ミクロライト』じゃない。ならこの子が噂の『ヒカリ・ウィンガート』ね?」
「はい。ヒカリちゃんです」
「そっか。大方、侯爵の人間が嫉妬に狂ってやったのね」
まるで嫌なことを思い出したように呟く。
「本当、トワの時から何も変わらない」
保健の先生はヒカリちゃんを優しく撫で、顔を顰める。
「監禁事件か。ここ十年くらいずっとなかったのに……」
「先生っていつから学園にいるんですか?」
十年くらいとか言い出したから思わず聞いてしまった。
「二十一からよ。学園卒業してから、ずっと体育の教師と、保健室を任されてるわ」
「おぉ」
実年齢はわかんないけど、大ベテランだ。
「んん……」
「ヒカリちゃん!?」
少し会話がうるさかったのか、ヒカリちゃんが唸りながらゆっくり目を開く。
「えっと……ここは……?」
「保健室よ?」
「保健……室……?」
ヒカリちゃんはゆっくり起き上がり、ぼーっとした様子で私とシャイナを見つめる。
「なんか……頭がガンガンする……」
「ガンガン? 痛いってこと?」
「うん……」
普段のヒカリちゃんからは考えられないほど顔が歪み、見るのが辛いほど苦しそうにしている。
「ヒカリちゃん寝てて、凄い熱だから」
「シャイナちゃん……ごめんね、心配かけたみたいで」
「本当よ……本当に、心配したんだから……!」
シャイナはヒカリちゃんが目覚めて安心したのか、ポロポロと涙を流していた。
「全く……もう……!」
気付けば私も涙が溢れ出しており、保健室は私とシャイナの啜り泣く声だけが響いていた。
*
「なんか、魔力測定の日を思い出すね?」
一通り涙を流し終え、少し気持ちがスッキリした時、ヒカリちゃんがそんなことを呟いた。
「あの日も二人が私の側で泣いてて、凄く心配させちゃったね?」
「本当よ!」
「うふふ! 懐かしいわね?」
ベッドで寝転んだまま苦笑いしているが、正直今日は比にならないほど心配した。
「『筒』って体質は『写真』だと役立ちそうよね?」
「あ、そうだ! 入学祝いで撮った写真の『げんぞう』が終わったのよ!」
「あ、懐かしい、もう一ヶ月も前のことだったわね!」
「少し時間かかったけど、あとで持ってくるわね?」
そんな風に雑談して、六限が始まる鐘の音も聞き忘れ、私たち三人は一時間、保健室で喋り倒した。
保健室の先生も何も言わないし、きっとジョン先生にもシン様から伝えて下さってる。
私たち三人で、初めての『サボり』を経験した日だった。
これが、最初で最後でありますように。




