165話 誉め殺し
「それでどうしたの?」
「うーん……」
二人で中庭のベンチに座り、隣のレオンは少し考え込むように顎に手を添える。
「……」
少し長い沈黙が続き、なんとなく僕は景色を見渡す。
『中庭』という割には非常に広く、テラスのような場所や、綺麗な噴水もあり、鮮やかな緑が空気を美味しくしている。
「綺麗な場所だな……」
学校の中庭なんて、前世じゃ手入れしている学校の方が珍しいのに。
「よし、僕も覚悟出来た」
「ん?」
キリッとしたレオンが僕を見つめる。
「ヒカリ、さっきの『新・音楽部』での歌とダンス上手だったね」
「なっ! それは忘れて!」
下手したら黒歴史直行の出来事なのに、何故わざわざ突いてきた!?
「いや、忘れないよ。ヒカリが懸命に努力して仕上げたのに、自分で蔑ろにするのは勿体無いでしょ? だから僕が褒めようと思って」
「なっ!?」
こ……こいつ! こいつ!!?
「歌も凄く上手だった。一ヶ月前より上手になってて、ヒカリの声とよく合ってた」
「わ、わかった! わかったからありがとう!」
「初めて見るようなダンスだったけど、ヒカリらしい可愛いダンスで凄く魅入ったよ。少し恥ずかしそうに踊ってるのも可愛かった」
「待って! 本当に待って!」
「やり終えて、恥ずかしさで床に座り込むヒカリも愛くるしかった」
「もう無理ぃ……」
誉め殺しするなんて聞いてない……!
真っ赤っかになった顔を両手で抑えつけ、恥ずかしさで俯く。
「この人たらしめ……!」
「好きな人にはちゃんと言葉で伝えないとね」
苦し紛れに吐いた言葉も虚しくあしらわれる。
「スーちゃんとかシャイナちゃんなら素直に受け取れるのに、なんでレオン相手だとこんな小っ恥ずかしいんだ?」
「逆にスティアとシャイナはちゃんと僕の言葉受け取ってくれるのに、なんでヒカリは素直に照れてくれるの?」
「知らないっ!」
なんか全部悔しくて適当に拗ねてみる。
「よしよし」
レオンはそのまま僕の頭を撫で、不思議なことに自分の機嫌が良くなっていく。
マジでヒカリちゃん単純。一体元男の心は何処へ行ったのやら。
「もうお終い! 帰るよ!」
「はいはい、もう少し堪能したかったけど」
「バカじゃないの!?」
恥ずかしさに耐えられず、勢いよく立ち上がり、荷物を雑に持つ。
「前にもこんなことあったけど、そんな褒めるほど?」
メイ様と下町に出かけた時も誉め殺しされかけたけど、そこまで絶賛するほどなのだろうか。
「ヒカリは意外と自分のこと褒めないから、その分僕が褒めてあげようかなって」
「人たらしめ!」
「ヒカリとスティアとシャイナだけだよ?」
レオンもゆっくり立ち上がり、何の恥ずかしさも見せずに僕の手を握る。
この人たらしめ!?
*
「そういえば、こうして誰かとゆっくり帰るの初めてだ」
「え?」
レオンはのんびり歩きながらそんなことを呟いた。
「あ、去年はセイナさんから逃げ回ってたんだっけ」
「うん。思い返してみれば、去年はあまり楽しくなかったな」
「そうなんだ……」
誰かから逃げ回る学園生活なんて、最早ダンジョンじゃないかと思えてしまう。
それほどまでにレオンに執着する理由が見当たらないけど、何がセイナさんやルージーさんを突き動かすのだろう。
「でも、今年は私とスーちゃんとシャイナちゃんいるし、少しは楽しめそう?」
「凄く楽しめそうだよ。スティアは生徒会入るって息巻いているし、ヒカリやシャイナの部活動も覗きにいくつもり」
「じゃあ来るの楽しみにしてる!」
多分去年はこんな晴れやかな表情のレオンを見られなかったのかもしれない。
生徒会室に籠るくらいだから、学園に行きたくないとすら思ってたかも……。
「ねぇレオン」
「ん?」
「学園って、楽しいね?」
「だね?」
侯爵の問題は絶えないけど、そんなの蹴飛ばすくらいには、充実しています!




