162話 順風満帆な二人
「ヒカリ様! お久しぶりです!」
「久しぶりナツ! 元気だった?」
「とても元気でした!」
ナツは僕の手を取り、満面の笑みでジャンプしている。
僕も店員さんに話しかけられて困ってたし、めちゃくちゃ救われた。
「あ、そうだヒカリ様!」
僕の手を離して、一緒にいた男性を連れてきた。
「私の彼氏です!」
「ナツ、この人は?」
彼氏は少し困惑した様子で僕とナツを交互に見つめる。
「ヒカリ様、えっと『ヒカリ・ウィンガート伯爵』様よ! ハイスさんとの問題を取り持ってくれた人よ?」
「え、いつもナツが言ってた人!?」
「そんな大層なことはしてないけど、あれから何事もなさそうで安心したよ!」
ハイス子爵は絡んできていないらしいし、順風満帆を絵に描いていそうだ。
「あ、えっと、初めまして、ナツとお付き合いさせて頂いています『フロム・ハノラント』と申します。『ハノラント』が地区名なので、僕は平民です」
紳士教育の賜物だろうか。非常に綺麗な礼を一つ。
「初めまして、ウィンガート伯爵の『ヒカリ・ウィンガート』です! 平民とか気にしないわ! 気軽に『ヒカリ』って呼んで頂戴?」
僕も礼を一つして、お互い挨拶を済ませる。
「ヒカリ様はどうしてここに?」
「それは……えっと……」
なんかナツを追って来ただけで、何も予定がないんだよな……。
「貴族様が平民の服買いに来るのだから……身分隠すため?」
「そ、そう! やっぱり身分があると少し苦しいもんね?」
フロムさんの推測にそのまま乗っかり、適当に言い逃れる。
「……ナツの言った通りだ、身分とかお気になさらないんですね?」
「ん?」
「僕の住んでる近くに『スカラ侯爵』の屋敷があって、その人たちは結構平民に当たり強いから」
「うわぁ……」
それは……可哀想に。あんなのが近くに住んでるとか、地域全体が事故物件みたいなものだ。
「まぁ何かあってもナツとルカは私が守るわ!」
「ヒカリ様!」
「ナツを取らないで下さい!」
「フロム!?」
なんか、ナツがヒロインみたいな構図になってる。
そんな風に店内でわちゃわちゃしていると、カウンターから見知った顔が一人増えた。
「あら、ヒカリちゃんじゃない! 久しぶりね?」
「え、メイ様!?」
アリアちゃんのお母様のメイ・セルライト公爵夫人だ。
「えっと、ヒカリ様、このお方は?」
「お綺麗な方ですね……?」
ナツとフロムさんはポカンと口を開けて見惚れている。
まぁ失礼ではないけど、公爵様相手だから目を覚ましてあげないと。
「こちらのお方は『セルライト公爵』のご夫人『メイ・セルライト』様です!」
「こう……しゃく!?」
「公爵様!?」
「様なんてつけなくていいわよ? ヒカリちゃんのお友達なら『メイさん』って呼んでいいよの?」
「メイ様、それはハードル高いかも……」
伯爵の僕ですら『様』つけてるのに。
「ヒカリちゃんはどうしてここに?」
「えっと、平民の服を幾つか」
「あら〜良いじゃない! 私が見繕ってあげるわ!」
「ふぇ!?」
あ、メイ様も目が輝き出した。
「あ、なら先にナツの分をお願いします!」
「え、わ、私!?」
「良いじゃない! ナツって言うのね? 少し私に付き合ってくれないかしら?」
服を飾らせるのが好きなメイ様だ。マネキンは多いに越したことない。
「フロムさんも可愛いナツ見たいよね?」
「凄く」
「フロム!? フロムが言うなら……」
顔を真っ赤に爆発させ、そのまま惚気てくれた。
「決まりね? じゃあVIPルーム借りるわね?」
「社長、また強引に……承知いたしました、あんまり長居し過ぎないで下さいね?」
「わかってるわよ!」
「えっと……お借り……します?」
公爵に手を握られてガチガチに緊張しているナツを見送り、フロムさんと二人きりになってしまった。




