149話 メンテナンス
あれから四日。
僕はちゃんと『新・音楽部』に入部届を出した。
そして『リョウ・ミドロ』も同様に入部届を出した。
まぁこんなことで入部拒否するのも嫌だし、気にしなければいい話。
それはそれとして今日は魔法基礎初日の日。
「魔法基礎の講義を始める。魔力測定後に少し習った者もいると思うが、驕らず、復習の一年だと思ってしっかりやるように」
つまりトワ様から習った僕は、完全に復習の一年だ。
きっと、前世塾で先の範囲の勉強を習った生徒の気持ちって、こんな優越感なんだろうな……。
「まず魔法で一番大事なことを伝えるーー」
(この優越感、ちょっと気持ちいいかも……)
十二歳のヒカリちゃん、しっかりと嫌な生徒の気持ちを理解してしまった。
そんなわけで授業は進み、魔法と感情について四十五分みっちり聞かされた。
「来週からはグラウンドに出て、実際に魔法を使い始める。くれぐれも遅れることがないよう」
すげぇ長く感じた……。
「なんか、面白そうだったわね!」
「そう? よくわからなかったわ?」
「え?」
シャイナちゃんは相変わらず新しいことが好きな様子だが、スーちゃんがよくわからないって感想なのが少し意外だ。
「スーちゃんなら魔法得意そうだと思ったけど……」
思わず声を漏らすが、理由は直ぐに理解できた。
「だって、気持ちを作るなんて当たり前じゃない! 陛下と会う時は礼儀正しくいるのは普通だし、平民と会う時は模範でいるべきよね?」
「あ……なるほど」
スーちゃんにとって、魔法基礎の根幹は、自分の根幹そのものだったんだ。
「やっぱりスーちゃんって、魔法得意そうだね?」
「私はそうは思わないわ?」
シャイナちゃんも理解出来たらしく、誇らしそうに微笑んでいる。
まぁ当のスーちゃんが何も理解していないのが少し面白いけど。
「それより、二人とも部活はいいの?」
「「え?」」
魔法基礎の講義は六限。帰宅や部活動の人でごった返す時間だがーー
「そうね、私はそろそろ!」
「なら私もシャイナちゃんと一緒に!」
何故か隣に残っていたリョウさんを牽制するように僕も立ち上がる。
「二人でずるいわ! 私も行く!」
そして嫉妬したスーちゃんは部活に入っていないにも関わらず、僕とシャイナちゃんと一緒にクラスを出て、部活動をしている教室まで駆け上がる。
「二人とも、ありがとう」
「ん? なんのこと?」
「ヒカリちゃん変なの!」
とぼけているが、リョウさんから逃げれたのは二人のおかげだ。
本当にどこかのタイミングでちゃんと話し合わないとな。
「それじゃあまた明日ね!」
「うんまた明日!」
「またねヒカリちゃん!」
二人に背を向けて部活動の教室の扉を開く。
「こんにちは」
「あらヒカリちゃん、早いわね?」
「新人ちゃんいらっしゃい!」
部室で楽器の掃除をしていたユウ様とフウさんが出迎えてくれた。
「掃除中?」
「メンテナンスの方が正しいかもね?」
「メンテナンス?」
その手のことは、専門職の人が対応しているイメージだが。
「このあたりの楽器って、殆ど世界に出回ってないから、僕たちが一番詳しいんだ。掃除は勿論、メンテナンスも自分たちでやらないとね」
「なるほど……」
フウさんは大切そうに布巾で拭き、音を確認し、それこそ職人のようだ。
ギターもドラムもベースも、ピアノそっくりのキーボードでさえも、この世界では存在認知されてない。
つくづく『新・音楽』なんだなって思わされる。
「そうだ、ヒカリちゃんに渡しておきたいものがあるんだった!」
「渡したいもの?」
トワ様はポンと手を叩いてカバンを漁る。
そして取り出して渡してくれたものはーー
「これ、最近『魔法具機構』で作られたものよ? 廃棄予定だったんだけど、ヒカリちゃんなら扱えるわ!」
「えっと……これは何ですか?」
USBサイズの長方形の何か、としか言いようがない。
「ロンド陛下の遺産には『ろくおん』って書いてたわね?」
「ろ、録音!?」
遂に音が取れるのか!?




