146話 新・音楽部
「お邪魔します」
レオンは『ガラリ』とドアを開き、中の生徒数人がこちらに目を向ける。
「レオン様……と、体験入部の子?」
「はい、僕は付き添いで来ました」
挨拶を終え、そっと教室に入る。
(全員で八人だろうか……)
文化部っぽい規模だ。
「こんにちは『ヒカリ』と申します」
礼とははせずに簡単に頭を下げる。
「ヒカリ……って、あの『ヒカリ・ウィンガート』さん!?」
「は……はい、そうです」
「え、噂の?」
「すげぇ、あの子が……」
名乗った途端、全員が興味を示したように振り返る。
毎日のこんな感じだけど、多分一ヶ月くらいは毎日こんなんだろうな……。
「そ、それで、体験入部って……本当?」
「はい、まだ入るって決めたわけじゃないけど」
「それでも嬉しいよ! いらっしゃい『新・音楽部』へ!」
レオンと一緒に用意された椅子に座り、活動を見渡す。
「この部活は『ロンド陛下』が残した遺産を借りて、ロンド陛下がどんな音楽を世に広めたかったのか研究する部活なんだ」
「はぇ…………ん!?」
髪を一枚受け取り、内容を読んでみる。
「ポーン王妃とロンド陛下はね、自分の遺産を『生活』とか『食事』って振り分けて後世に残しているんだ」
「なるほど……」
レオンは話の内容に関心しているようだけど、僕はそれどころじゃない。
「この詩はね『音楽』の遺産に残されていたんだ。まだ全然読み解けてないけど、この部活では、この詩をイメージして音楽を作ったりしているんだ」
「なるほど、だから『新・音楽部』なんですね」
「…………」
「ヒカリちゃん」
この人たちの言ってることはよくわかる。意図を読み取って音楽にするって素敵な発想だと思うし。
でも、僕はポーン王妃とロンド陛下が実現させたかったものを、明確に理解出来た。
「これ…………」
「「これ?」」
アイドルソングの歌詞じゃねぇかぁぁぁぁ!!
あいつら、この世界にアイドル流行らせたかったな!!?
「ヒカリちゃん、どうしたのそんな震えて」
「いや大丈夫、本当に、ね……」
あまりのギャップに笑いが込み上げてくる。
まぁでも正直わかる。この世界に録音なんて機能はないし、歌うことは『ミュージカル』や『合唱』や『オペラ』のようなもの。
『音楽はクラシック』であり『踊りは社交ダンス』しかない。
パッと教室を見た限り、一応ギターやドラムの軽音要素はあるからポップミュージックは作れるけど、僕に知識がない。
「……」
いや終わってる。
この世界で多分僕が一番『新・音楽』に詳しいのに、軽音やダンスの知識が無いせいで伝えられない。
「本当に大丈夫?」
「覚えてるかな……」
「ヒカリちゃん?」
別にドルオタでもなかったけど、流行ってた曲くらいは知っている。
それに今は『社交ダンス』で身につけた体幹も備わってる。
僕はスッと立ち上がり、歌詞と睨めっこする。
「楽譜とかってある?」
「楽譜は……残されていますけど、不思議な音楽で」
「なるほど。演奏とかって……」
「一応やったことありますけど……」
多分、不思議な音楽に感じたのは、歌の主旋律が存在しない状態だったからだ。
「じゃあ、演奏お願いしてみても良いですか?」
「ヒカリちゃん?」
レオンは不思議そうに見つめているけど、数秒後には目を見開いてくれるんだ。
「じゃあ、指揮は僕がやるとしてーー」
「指揮!? いるの!?」
「え? 指揮がいないと誰が音を制御するんだ?」
「…………」
いやまぁそうか。
クラシックしかない世界だとそういう発想だよな。
これは僕が浅はかだったな。
そんなわけでギター・ベース・キーボード・ドラムを各々担当者が用意。
(ここだけみると完全に軽音部だな)
「それじゃあ始めるよ!」
男性が指揮をとり、音楽が流れ始める。
それに合わせて僕はマイクを持って歌い始める。
ただの有名なアイドルソング、前世で歌えば勝手に盛り上がるほどの曲だが、この世界では初めて触れる概念。
(カラオケなんて行ったことなかったけど、こうやって弾けて歌えるのって、楽しいな)
社交ダンスで鍛えた体幹でなんとなくステップを踏み、音が外れてもお構いなしで歌い続ける。
緊張なんてまるで感じず、ただただ楽しく歌い通した。
「ふぅ……!」
(ヒカリちゃん、肝っ玉じゃん!)
自画自賛して歌い終え、あたりを見回す。
「どうですか?」
「「……」」
全員が目を輝かせてぽかんとしている。
「すっっっごいよヒカリちゃん! 今の何!?」
「えへへ、この曲自体を知ってたので」
「すげぇ! こんな音楽なんだ!」
「なんか不思議な歌い方だったね!」
「えへへ、ありがとうございます!」
一斉にクラスが騒めき出し、今日一番の賑やかさに、僕も自然とテンションも上がってしまった。




