144話 私の親友は
「ヒカリちゃん……」
「ん?」
ヒカリちゃんは、まるで何事もないように首を傾げる。
「大丈夫……なの?」
「うーん、ちょっと痛いけど大丈夫!」
ヒカリちゃんはいつもと変わらない笑顔を魅せているはずなのに、どうしても安心出来ない。
だって、頬を打たれて大丈夫なはずがない。
いや、私が『大丈夫?』って聞いたから、聞き方がダメだった。
「本当に大丈夫だよ! 前にもルージーさんとはこういう事あったし」
「前にも……あったんだ……」
話し合いのトラブルなのか、前も打たれたのか。
どちらにせよ、大切な友達に暴力を振るったルージーはもう絶対に許せそうにない。
「ヒカリちゃん、少し座って待ってて」
「シャイナちゃん?」
私は駆け足でさっき一緒にいたカフェに入る。
「いらっしゃいま……えっと『シイナ』ちゃんだったわね?」
「ごめんなさい、今は『シャイナ』でお願い。ヒカリちゃんがルージーに打たれたっぽくて、何か冷やせるもの頂けないかしら」
「え、またあの人に暴力振るわれたの!?」
ヒカリちゃんが『ハネットさん』と呼んでいた店員さんが目を丸くしている。
ヒカリちゃんがさっき言ってた『前にもあった』現場がここだったんだ。
「えっと、ハネットこれ……」
「ロアありがとう。私もついていって良いかしら」
「わかった。店は任せろ」
「私も構いませんわ」
「ありがとう」
ハネットさんは水の入った瓶を手に、私の後を走ってついて来た。
「ヒカリちゃんお待たせ!」
「おかえりシャイナちゃん……あれ、ハネットさんも?」
「ヒイカちゃんがまた暴力振るわれたって聞いて……」
「あはは……」
困ったように笑うヒカリちゃんだが、頬は痛そうに赤く染まっている。
「ヒイカちゃんはい」
「ハネットさんありがとう! シャイナちゃんも、心配かけてごめんね?」
「そんなこと……」
全然そんなことある。
凄い心配。これから先、どんどんトラブルに巻き込まれるのが見えるから、心配してもし足りない。
ヒカリちゃんが、笑えなくなっちゃう日が来るのが……心配で仕方ない。
「とりあえず二人とも、座らない?」
ヒカリちゃんは手でポンポンと椅子を叩いて促す。
「「……」」
私とハネットさんは顔を見合わせてヒカリちゃんの両サイドを埋めるように座る。
冷たい瓶を頬に当てて「気持ちぃぃ」と呟くヒカリちゃんは、まるで暴力なんて振るわれてなかった見たいにケロリとしている。
「ヒカリちゃん……辛くないの?」
「へ?」
「あっ……!」
私は探ることや、遠回しに聞くことをせず、そのままの言葉が漏れてしまった。
「うーん、正直、ある程度覚悟出来てたから、まだ大丈夫かな? これが毎週とかだったら無理だと思うけど」
「……そう、なんだ」
私のお兄様も『ヒカリちゃんが学園に入ったらーー』って本人に言ってたし、他の人もそういう警告はしていたのかもしれない。
でも、そんな覚悟決めないといけないのもおかしい。
こうなることを想定してても、起きていいことじゃない。
「ほんっと頭きますね! 正直貴族様の事情はよくわからないけど、暴力に頼ったらいけないってわかんないですかね?」
「本当に同感! 痛いしうざいし、早くレオンに切られた事実を受け入れろっての!」
「……」
ハネットさんのノリに便乗したヒカリちゃんが、普段見かけないヘンテコなテンションで愚痴ってる。
「もう痛いよぉ……ハネットさん助けてぇ」
「よしよし、可哀想に?」
打って変わって甘えん坊になったヒカリちゃんが、ハネットさんに撫でられて目を細めている。
「ッ!」
「シャイナちゃん?」
「あはははは!!」
そんな様子が面白おかしくて、私ははしたなく大笑いしてしまった。
「ううんなんでも! 私も同感よ!」
私も二人につられてテンションが上がる。
ヒカリちゃんは別に辛くないわけじゃない。
ただ、それ以上に私たちとの時間が楽しいから、そんなことどうでも良いって思えているんだ。
「やっぱり、ヒカリちゃんって、面白いわ!」
私の親友は、強くもないし気高くもないけど、誰よりも尊い存在なんだ。




