143話 話し合い
ルージーさんについていき、案内された場所は、なんの変哲もない小さな公園だった。
「……本当に話し合うだけなんだね」
「あら? まるで私があなたに横暴するみたいな言い草ですわね?」
周りには人が歩いており、公園には子供もいるから、嫌でも僕たちの姿も目に入る。
「私のこと地下に監禁しようとした癖に」
「身に覚えがありませんわね? 魔法による変装ではありませんの?」
「……」
こういう時、魔法って不便だなって思わされる。
例え時間制限があっても、声音も髪色を変えられるのだから。
「まぁそんなことどうでもいいですわ」
「……」
監禁をどうでもいい扱い……か。
本当に狂った価値観してやがる。
「しかし、改めて見ると、貴女って可愛らしい見た目してますわよね?」
「…………は?」
え? 褒められた? ルージーが、褒めた?
「綺麗なピンクの髪も、大きな目も、華奢な身体も、まるで女の子の憧れを詰め込んだ見たいね?」
「…………」
やばい、気味悪い。喜ぶべきところなんだよな。
手のひらの返し方が異質過ぎて悪寒がする。
「王族の方々も、この容姿に惑わされてしまったのですね?」
「……」
良かった、いつも通りのルージーだ。嫌味たらしくて嫉妬深くて最低のルージーだった。
いや安堵する理由が変なんだけど……。
「ねぇヒカリさん、前話したこと、考えてくれたかしら」
「前……?」
「レオン様の婚約者候補の解消よ?」
「……」
二年前、丁度さっきのカフェの中でのトラブルでルージーが言っていた。
「前も言ったけど、絶対に嫌!」
「あら、どうしてかしら?」
「嫌だから。それ以上でもそれ以下でもーー」
「あなた、レオン様のこと好き?」
「好きよ。当たり前でしょ」
好きじゃなかったら、こんなに婚約者候補に縋らない。
「でもね、私の方がずっと好きよ?」
「……は?」
「あなたより、ずっとずっとレオン様を想ってるの!」
「……」
「あなたは婚約者候補から外れるべきなのよ! あなたよりレオン様を愛してる私やセイナさんの方が良いに決まってるわ!」
「…………」
何を言っているんだこの人は。どれだけ愛してても一方通行の気持ちじゃ意味ないだろ。
「……本当に」
「何かしら?」
「本当に貴女はレオンのこと何もわかってない……」
「っ!」
僕はあの時と同じことを言い、そして同じように『パァン』と平手打ちを喰らう。
「調子に乗らないことね? 私は優しいから何度でも待ってあげるわ? 早く婚約者候補から外れなさい」
「絶対に嫌! 仮に私が外れても、後任を貴女なんかに任せたくない!」
「このっ!」
再び『パァン』と音が響く。
同じところを二回も叩かれたせいで超痛い。勝手に涙も溢れ落ちるし、ルージーさん超キレてるし。
「本当に、何故あなたなんかが婚約者候補に残ったのか、全く理解出来ませんわ?」
「私は貴女が外れた理由がよくわかるわ?」
「ッ!」
痛い。もう三回も叩かれた。苦しい、無理。
「これ以上話しても無駄のようね。また別の機会に話し合いましょ?」
「……」
話し合いという名の一方的な暴力だった気がするけど、取り敢えずひと段落着いた。
せっせと公園から出ていく姿を涙目で見送り、僕は暫く叩かれた頬を摩って立ち尽くしていた。
今戻ると、向こうでルージーと会うハメになる上、セイナもいるし、戻らない方が賢明だ。
*
「それで、話って何かしら、セイナ・スカラ『侯爵』さん」
「あらあら、公爵様が立場を気にしてお話しされるなんて、少しびっくりしてしまいますわ?」
わざとらしく目を見開いて口を開けるセイナは、一ミリもびっくりしていなさそうな様子だ。
「『貴族至上主義』の立場に立ってお話ししてあげようと思ってるだけよ? あなたもその方が話しやすいでしょ?」
「…………そうね」
私の方が立場が上である以上、相手の土俵に立った方が完全優位に話せる。
嫌な考え方だけど、セイナが話し相手ならこれくらいでも優しい。
「簡単な話よ『ヒカリ・ウィンガート伯爵』に、婚約者候補を外れるよう伝えてくれないかしら? 私やルージーがどれだけ言っても、きっと良い返事が貰えないもの!」
「嫌よ」
可哀想な自分を演じて酔っている最中だったが、私は即答で返した。
「ヒカリちゃんは残るべくして残ったもの! それが不満なら、レオンに直接……ってあぁ、あなたたちは今手紙一つ受け取って貰えてなかったわね?」
私は少々愉快な現状を口走って鼻で笑う。
「お前……」
「公爵家の人間に『お前』って言ったかしら」
「失礼しましたわ……」
同じ土俵に立った以上、相手は私の言葉に苛立ちを覚えても言い返せない。
せいぜい、今みたいに睨みつけるだけが精一杯。
『貴族至上主義』の悪いところだ。
「まぁ良いですわ。いずれ『ヒカリ・ウィンガート』は自分の意思で婚約者候補から外れるもの」
「……」
不気味な笑みを一つ浮かべて話を終える。
丁度そのタイミングでルージーが一人で戻ってきた。
「では、ごきげんよう?」
ルージーは挨拶一つすることなく、セイナと一緒に馬車に乗り込んで去っていった。
「ヒカリちゃんは……!」
私は急いでルージーが歩いて来た方へ駆け出す。
そして直ぐに公園で見つかったヒカリちゃんはーー
「シャイナちゃん、話はどうだった?」
頬を叩かれたように赤くなっており、泣いた形跡が目の下に残っていた。




