142話 二人同士の対話
あれから沢山雑談して、二時間ほどして店を出た。
「楽しかったね?」
「うん! こういうこと初めてだったから本当に……!」
シャイナちゃんはとても満足そうな笑みをしていた。
「こういうの、月に一回でも良いからやりたいな? 一緒に勉強して、学校のイベントを頑張ろうって励ましあって、レオンの話で盛り上がって……」
「シャイナちゃん?」
不意にシャイナちゃんの口が止まる。
思わず顔を覗いてみる。
「あと三年、十五歳には婚約者も確定かぁ……」
傾きかけた陽に照らされて黄昏てるシャイナちゃんは、どことなく輝いている。
「…………そうなの!?」
「ヒカリちゃん!?」
そんなことお構いなしで、初めて知った情報に驚きを隠せないでいた。
「あと三年で決定なの!?」
「だって、いつまでも候補でいても、私たちの婚期も逃しちゃうし……」
「そ……そうだよね……」
いや当然と言えば当然の話なんだけど、頭の中に入ってなかったよね。
「私、どっちが婚約者になっても沢山祝うよ!」
「ヒカリちゃんも候補の一人だよ……?」
「そ、それはそうなんだけど!」
なんか上手く頭が整理出来ない。
「ヒカリちゃん面白い!」
「シャイナちゃん!!」
クスクス笑ってるシャイナちゃんは、さっきのような哀愁は既になく、いつも通りの可憐なシャイナちゃんだ。
「やっぱり、ヒカリちゃん好き!」
「シャイナちゃん?」
不意に頭を撫でて、妹を見るような優しい視線を送る。
「帰ろっか!」
「うん……?」
シャイナちゃんの行動がよくわからないまま、一緒に歩き出す。
しかし、どうやら平和に終わらせてくれる様子はなさそうで……。
なんとなく見逃していた馬車が少し前で急停止する。
「うわぁ……」
僕は本能的に声を漏らす。
この感じは、見覚えがある。
ガタリと扉が開き、同じ制服姿の女性が二人降りて来た。
「あら偶然ね? ヒカリ・ウィンガートさん」
「…………」
こんな風に嫌味たらしく関わってくる人なんて数人しかいない。
マージで会いたくなかったですよ。
「偶然……ですね……ルージーさん……」
そしてもう一人。
「まさか、シャイナ様とご一緒だったなんて、驚きですわ?」
「何か用かしら、セイナさん?」
ルージー・セッカ侯爵と、セイナ・スカラ侯爵。
未だレオンの婚約について根に持っている代表的な二人。
そして、社交界の日、僕を監禁しようとした、明確な敵だ。
*
「……」
周りの人は、貴族同士の面倒毎に巻き込まれたくないのか、早足でその場を去っていき、一瞬で四人だけの空間になった。
「ねぇヒカリさん、私、あなたと二人でお話ししたいのだけど、良いかしら?」
「……嫌って言ったら?」
「……」
ルージーは『カツッ』と音を立てて一歩前に出る。
「なら、命令するしかないわね『伯爵』さん?」
「……」
こういう時の『貴族至上主義』の考え方は嫌いだ。
相手の気持ちを考えずに命令することを、なんとも思ってない。
「ねぇルージー『侯爵』さん。ヒカリちゃんが怖がってるのだけど、それじゃあ話し合いなんて出来ないと思わない?」
「シャイナ・ミクロライト……」
何か言うでもなく、ただ名前を呼ぶだけでこんなにも『忌々しい』って伝わるんだ。
「なら、貴女は私とお話ししないかしら?」
「あら、私は別にセイナさんと話したいことなんてないのだけど」
「私はあるわ?」
「お断りって言わないとわからないかしら?」
「公爵様は会話も出来ないほどお高くとまってるのかしら?」
腹の探り合いは一瞬で本音のぶちまけ合い変わり、お互い不快感を隠そうとしない。
「……」
ダメだ、シャイナちゃんのそんな顔見たくない。
「わかった」
「ヒカリちゃん!」
シャイナちゃんは驚いたように僕を見る。
「あら、物分かりが良いのね? そういう人は嫌いじゃないわ? 好きでもないけど」
「……」
ルージーは『ついて来なさい』と言わんばかりに背を向けて視線を送る。
「シャイナちゃん、ちょっと話済ませてくるね?」
「ヒカリちゃん……」
僕は軽く手を振ってルージーの後を追う。
(心配だろうな……)
何せ相手は、社交界の日に僕を監禁しようとした相手だ。
シャイナちゃんが何も思わないわけがない。
「なら、貴女は私とお喋りしましょ?『シャイナ・ミクロライト』公爵様?」
「…………」
シャイナちゃんは頷くでもなく、セイナを睨みつける。




