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141話 夢中になれること


「お待たせしました、本日のケーキセットです!」


 ハネットさんがニコニコで運んで来た注文。


「お……美味しそう……!」


 シャイナちゃん、もとい、シイナちゃんがニコニコで見つめるケーキセット。



「ふふっ! これだけ良い反応してくれるとサービスしたくなっちゃうわね!」

「ハネットさん、私もシイナちゃんも今は貴族じゃーー」

「知ってるわよ! 私がやりたくてサービスするだけ! お客さんを繋ぎ止めるには『適度なサービス』が一番なのよ!」

「あはは……」


 この経営者め。しっかり客の心を掴んでやがる。

 そして僕もしっかり心掴まれてるからシャイナちゃんを連れて来たんだけど。


「それじゃあごゆっくり!」


 手を振って立ち去るハネットさんに、シイナちゃんもつられて手を振る。


「た……楽しいわ……!」

「シャイナちゃん……」


 まだ何もしてないのに目がキラキラしている。


 タルト作りや平民服研究部でもそうだが、シャイナちゃんは平民の営みに強い関心がある。

 写真部を創りたい願いと関係してたり…………いや、考えすぎか。


「紅茶も冷めちゃうし、食べましょ?」

「そうね、いただきましょう!」


 いつのまにか食べ慣れたハネットさんもケーキ。いつ食べても美味しい。


 そしてシャイナちゃんはーー


「〜〜!」


 悶絶してる。


「どうしよう、シャイナちゃんが可愛い」

「ヒカリちゃんこれ美味しい! なんで! 家で食べるよりずっと美味しいわ!」


 手を頬に添えて、溢れんばかりの笑みを浮かべる。

 すげぇ人ってこんなに目が輝くんだ。


「ヒカリちゃん、ヒカリちゃんすごい!」

「シャイナちゃん落ち着いて」


 とっくに平民の呼び名すら忘れて、大興奮のシャイナちゃんを治める。

 なんなんだこの子、無邪気過ぎるだろ。


「凄いわ、どうやって作ってるのかしら!」

「あはは……」


 椅子に座ってなかったら絶対ジャンプしてる。



「シャイナちゃんって、お菓子作り好きなの?」

「へ?」


 興奮を抑えるためにも取り敢えず話題を振る。


「うーん、どうなんだろう。私もわかんない! でも、平民って、自分の手で一から作るから、凄いなって思うわ!」

「なるほど」


 まぁ十二歳に自分の心が全てわかるわけでもないし、他人からの方が心内は見えたりするものだ。


 多分シャイナちゃんは『作る』ことが好きなんだ。

 だから写真の『試作品』にも強い興味があったんだ。



「いいなぁシャイナちゃん」

「何が?」

「好きなものがあって、羨ましいなって!」

「好きなもの?」

「うん」


 前世の僕でも、今世の僕もまだ持ってない、夢中になれる何か。


 毎日は楽しいし、前世で嫌いだった勉強にも意欲的に取り組めてるけど、よく考えると好きなことが見つかってない。


「私、自分が夢中になれること無いなって」

「そうかしら?」

「うん、タルト作った時も楽しかったけど、一人だったらそんなにだったかもしれないし」

「ヒカリちゃん……」


 スーちゃんは自分を強く持ってて、シャイナちゃんは夢中になれるものがあって、僕は一体……。



「ヒカリちゃんでも、卑屈になることあるんだね?」

「へ?」

「だってヒカリちゃん、元気が取り柄な子って感じだったからさ?」」


 シャイナちゃんは少し不思議そうに僕を見つめる。


「ヒカリちゃんって、いつも楽しそうだから。私もスーちゃんも、元気なヒカリちゃんに癒されてるし」

「そう……なの?」

「うんそうだよ! 妹みたいだし!」

「……」


 この人は何を言ってるの?


「私さ、元気が取り柄って凄く良いなって思うの!」

「なん……で?」


 元気が取り柄って、自分の中では褒めるところがないからそう言ってるだけって感じるけど……。


「だって、元気が取り柄な子って、そこにいるだけで楽しくなるし、世界が明るくなるし」

「そ……そんな風に見えてたの私のこと」

「そうだよ? ヒカリちゃんといる時のスーちゃんなんて、ずっと楽しそうだもん!」

「そ、そうなんだ……!」


 なんだろう、めちゃ照れ臭い。


「だから、ヒカリちゃんはこのままでいてほしな? 夢中になれるものは、部活動を探せば見つかると思うし、見つからなくても、私とスーちゃんが居れば楽しいでしょ?」

「うん……うん! そうだね!」


 思わぬところで絆の確かめ合いになったけど、なんか、こういうのって、いいな。

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