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136話 ダイア・オーラライト公爵子息


 コウとダイアくんは執事にバスタオルでぐるぐる巻きにされて、そのままお風呂へと向かった。


 そして僕はというとーー


「スーちゃん、本当にごめん!」


 ダイアくんを池ポチャさせてしまったことを全力で謝っている。


 まぁスーちゃんなら許してくれるだろうけど『公爵家の人間が池に落ちた』という事実には、きちんと謝罪をしなくてはいけない。


「許すかどうかはダイアが決めるとして、ヒカリちゃん」

「はい、なんでしょうスティアさま……」


 いつもより沈んだように聞こえたスーちゃんの声は、自然と口調も整わせる。


 ちょっと怖いと思いつつ、口を開くのを待つ。


「ありがとね、コウくんと会わせてくれて」

「はいすみま……え?」


 勢いに任せて謝ろうとするが、予想外の返事に言葉が詰まる。


「あんなに笑ったダイアは初めて見たわ?」

「確かに、入学祝いの日も、スーちゃんについてきてたけど、ずっと俯いてた……」


 元々ダイアくんの事情はその日に聞いていたけど、スーちゃんも初めて見るほどの大笑いだったとは。


 コウ、ファインプレーだよ! 自ら池に落ちた以外は。


「だから、ありがとう」


 そうか、沈んでいるように聞こえたのは、安心しきっていたから気が抜けてたんだ。



「……スーちゃん、それは後でコウに言ってあげて? 凄く喜ぶと思うよ」

「そう……ね。そうよね? 確かにそうだわ! ありがとうヒカリちゃん!」

「あはは……」


 確実にダイアくんの笑顔を見れて気が動転している。



「カルラくんも、ダイアのこと気にかけてくれてありがとうね」

「いえ僕は全然、コウくんが凄かっただけでーー」

「そんなことないよ?」


 スーちゃんのお礼を受け取らなさそうなカルラくんに、私が横槍を入れる。


「歳は少し離れてるかもしれないけど、私たちより同じ目線でダイアくんのこと見られるんだし、カルラくんはダイアくんにとって大切な人になるはずよ?」


 僕やスーちゃんは七歳差だし、そもそも異性だ。


 それに、僕も元男とはいえ、既にヒカリちゃんとして十二年も生きてきた。



 もう『元男』っていう記憶しか残っていない。



「同性じゃないとわからないところも沢山あるし『僕は全然』なんて言わないで?」

「ヒカリちゃん……!」


 なんとなくカルラくんの頭を撫で、自然と笑みが溢れでる。


「ヒカリちゃん、わざとやってるの……?」

「スーちゃん?……はっ!?」


 カルラくんの顔が、真っ赤っかだ。


「ヒカリちゃん、あんまりカルラに構うと失恋のショック大きくなっちゃうよ?」

「アリアちゃん!?」





 ダイアがお風呂から出た後は、時間も時間だったので、アリアさんとカルラくんも馬車に乗って帰宅した。


 そして、私とダイアも二人で馬車に乗って家を目指している。


「おねえさま」

「どうしたのダイア」


 ダイアから声をかけてくれることは珍しい。基本私が声をかけて、最近はちゃんと受け答えしてーー


「ありがとう、ございます」

「何がかしら?」

「沢山、気にかけて、くれて」

「ダイア……」


 俯いているダイアの目から、ポタポタと涙が溢れ落ちる。


 なんで泣いているの? さっきまであんなに楽しそうにしてたのに。


 池に落ちた時どこか怪我した? もっと遊んでいたかった?


 そんな風に必死に頭が回転しているが、理由はダイアの口から出てきた。



「こわかった……んだ……!」

「こわ……かった?」

「おねえさまたち、やさしぐで、いっじょにいて、たのじくて……! でもーー」


 どんどん溢れる涙は、ダイアの膝を何度も伝い、ようやく吐き出せる言葉のようで……。


「まだ居なぐなっだら、いやだがら……! こわぐで!」

「ダイア……!」


 私はなりふり構わずダイアを抱き寄せる。


 制服が涙で濡れようと、髪が乱れようと、そんなこと関係ない。


「だのじぃのが……こわぐでぇ! うわぁぁぁ!!」

「ダイア、大丈夫よ! 私は居なくならないわ!」


 ダイアは、あまり笑わないんじゃなかった。


 心を許すのが怖くて、居心地が良いのが怖くて、必死に笑わないようにしていたんだ。


「気づかなくて……ごめんねダイア……!」


 気付けば私も涙が溢れ出していた。


「おねえさま、ごめんなさい!」


 まだ本当の家族と呼べるほど、互いを理解し切れていないけど、私の(ダイア)を思う気持ちは、ダイアモンドなんかより、ずっと硬くなっている。

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