132話 ダイアくんの一歩目
その日の放課後。
今日はシャイナちゃんがレオンと部活を一緒に回る日で、僕とスーちゃんは二人で帰路に立っていた。
そんな中でスーちゃん迎えの馬車が校門前に止まり、中から黒い髪の小さな少年がゆっくり降りてくる。
「お姉様、お帰りなさいませ」
「ダイア出迎えありがとう! 勉強は順調かしら?」
ダイア・オーラライト公爵子息。スーちゃんの義理の弟で、養子縁組をしたばかりの新しい家族だ。
「大変ですが……なんとか、ついていけてます」
少しおどおどした様子のダイアは、怯える小動物のようだった。
「そう、無理もないわ。まだ生活にも慣れていないだろうし、頼れる友達も欲しいものね?」
「あっ……」
不意にスーちゃんがこちらに視線を向けて来た。
「な、なら今度! コウを紹介してあげるわ!」
スーちゃんの意図に気付き、少し慌てながらも言葉を紡ぐ。
入学祝いの日、コウは庭に出て来ていなかった。
(もしかしてスーちゃん、あの日ダイアくん連れて来たの、コウと会わせたかったから……?)
今コウは七歳になったばかりで、僕はコウの交友を知らないけど、あまり多くないらしい。
「ダイアくん、私にも弟がいるんだけど、少しお話ししてみない?」
「えっと……」
膝をついて視線を合わせる。
少し青ざめた顔は、僕に怯えているんだと直ぐ理解できた。
両親を賊に目の前で殺されてから、極端に人を怖がるようになった男の子。
いきなり知らない人と一対一は怖いだろうか。
「おねえさまぁ……」
「ダイア……」
でも、怯えているものの、スーちゃんにはかなり懐いている。
「ダイア、遊びに行く時は私もついて行くから、心配する必要ないわ」
ダイアを優しく撫で、傲慢とは程遠い緩やかな目で見つめる。
「無理して来なくても大丈夫よ? 少しでも行ってみたいなって思ってくれたら、その時に来てくれれば!」
「あ……ありがとう……ござい、ます」
途切れながらもなんとか言い切る。
スーちゃんは一体どれだけ頑張ればこんな仲良くなれるんだ。
「今から……行っても、大丈夫……ですか?」
「うん!……うん?」
「へ?」
今から?
*
「到着ね!」
本当になぜかそのままうちに来ました。
まぁダイアくんも一回うちに来たことあるし、他の人の家より覚悟決まりやすいかもだけど。
三人で馬車を降り、家の庭を歩いている途中ーー
「おねえちゃんおかえり!」
「ただいまコウ!」
庭を元気に走っていたコウと遭遇。
それからもう一人。
「コウくん待って! ってあれ! ヒカリちゃん!?」
「あ、カルラくん久しぶり!」
ヒラヒラと手を振ってカルラくんと挨拶。
「ヒカリちゃん、この人は?」
「そっか、スーちゃんは初めて会うのか」
入学祝いでみんな集まった時も、カルラくんはレオンが来るなら行かないって拗ねてたらしいし。
「この子は『カルラ・セルライト』アリアちゃんの弟だよ?」
「ヒカリちゃん、その人は……」
「私の友達の『スティア・オーラライト』よ!」
「初めまして。公爵家の娘『スティア・オーラライト』ですわ? ヒカリちゃんもそうだけど、あなたのお姉様『アリア・セルライト』とも仲良くして貰ってるわ?」
スーちゃんは綺麗にお辞儀を一つ。
「あ、初めまして。公爵家の息子の『カルラ・セルライト』と申します」
カルラくんはまだ紳士教育を習っていないが、真似事で覚えただろう紳士の礼を一つ。
「えっと、そちらのーー」
「ッ!?」
カルラくんがダイアくんに視線を移した途端、ダイアくんは青ざめてスーちゃんの手を強く握る。
「この子が私の弟『ダイア・オーラライト』よ。訳あって養子縁組をしたのだけど、少々人見知りが激しくて、無礼を許してくれると嬉しいわ?」
「わかりました」
カルラくんが視線をスーちゃんに戻すと、握る手が少し和らぐ。
「……」
勿体無いな、カルラくんも優しいから……。
「そうだ、折角なら三人で遊んだら?」
「ヒ、ヒカリちゃん!?」
「良いと思うわ?」
「スティア様!?」
ダイアくんはいつかちゃんと人に慣れなきゃいけない。
家族と上手く行ってるっぽいし、次は歳が近くて良く知る二人、コウとカルラくんなら任せても大丈夫だろう。




